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第34話

しばらくすると、姉の春香が戻ってきた。そのタイミングで玄龍は帰って行った。 「おふくろさんは大丈夫ですか?」 「うん、今寝かせてもらってる」 春香は雪柊の着替えを袋から出し、横にあるキャビネットに仕舞っている。 春香と母親は自分を恨んでいるだろうか。自分と出会わなければ、こんな事にならなかったと、思っているかもしれない。 そう思うと、かける言葉がなかった。 「雪柊、村上くんと出会ってから、毎日幸せそうな顔してたよ。昔は無口で暗くて、この子はこの先どうなっちゃうだろうって思ったけど、小学生の時、村上くんに助けてもらってから、すっかり村上くんが雪柊にとってヒーローになったみたいで、九十九さんのようになる、っていっつも言ってた」 「オレが、助けた……?」 「聞いてないの?この子、小学生の時に高校生に絡まれて、その時村上くんに助けたもらったって、それが自分の人生変えたって」 九十九はしばし考え込んだ。 そして、思い出す。 確かに昔、高校生に襲われそうになった女の子のような華奢な少年を助けた事を。 「あれ……雪柊だったのか……」 そう呟き、雪柊を見た。 眠っている雪柊とあの少年が重なった。 「なんだ、知らなかったんだ。言ったってバレたら怒られそう」 クスリと雪柊と似た笑みを浮かべ、春香は雪柊に目を向けた。 「だから、自分を責めないで」 九十九の心を読んだかのように彼女は言った。 「あなたがいなかったら、今の雪柊はなかった」 その言葉に救われた気がして、九十九の目頭が熱くなるのを感じた。 「今日はもう、帰りなさい。明日も学校あるんでしょう?目、覚ましたら連絡するから」 自分がこれ以上ここにいても出来る事はない。 「はい……また、明日来ます」 そう言って頭を下げ、もう一度雪柊を見る。 (また、明日来るからな) そう心の中で雪柊に言うと、病室を出た。 家に帰り、一の部屋を見上げると電気が点いていた。 一にも言わないといけない。 泣くだろうか。 おそらく、信じられず、あの雪柊の姿を見ないと実感はわかないだろう。 一の部屋をノックする。しばらくすると目を擦りながら一はドアを開けた。 「なんだ、寝てたのか?」 「うん……どうしたの?」 ふあーと欠伸を一つする。 「雪柊が……バイクで事故った」 「え?」 一気に目が覚めたのか、 「う、そでしょ?」 「意識がない」 一は九十九の腕を掴んだ。 「嘘!」 「……」 九十九は黙っていると、その場に蹲ってしまった。 「明日も病院に行く。おまえも来るか?」 一は力なく頷いた。 その日、一は九十九のベッドで眠った。 一人は嫌だと、一が言ったのだ。 こうして並んで眠るのは小学生以来か。九十九も一人でいるよりマシだと思った。どうせ、眠れやしないのだ。 結局一睡も出来ず、朝になる。 九十九は学校に行く気にもなれなかったが、家にいればどうせ色々考えてしまうだろうと思い、学校に行く事にした。 一も相当気落ちしていて、大食いの一が朝ご飯を食べない事に母親が驚いていた。 その日、学校に行っても何一つ授業の内容など頭に入ってこない。 携帯をずっと握りしめ、何か連絡はないかと携帯を手から離す事が出来ない。あってもなくても不安で、できれば電話などない方がいいと思った。 何通かルシファーのメンバーからメールが届いた。もうすでに何人かは病院に行ったようだったが、相変わらず、雪柊は目は覚ましてはいないという。

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