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* 狼獣人と兎獣人のバレンタインデー (後日談 編) *

* 「そういやさ、お前……何で兎族の獣人なのに……狂暴クラスにいるんだ?」 「そ、それは____な、内緒……です……」 俺の家(住みかというべきか)の居間にあるこたつに二人で入って暖を取りながら、俺は昨日の出来事を思い出しつつもずっと気になっていたことをミルナへと尋ねる。 そして、視線を未だに食べれていないミルナから貰った手作りチョコレートの箱が置かれているタンスの上へと向けた。 * 結局、あれから二人きりでバレンタインデーにくれた丸い爆弾のようなチョコレートを食べようと意気込んでいた訳だけれども、その日のうちにそのささやかな願いは叶えられなかった。 別に、俺に特別な用事があった訳じゃない。 チョコレートをくれた張本人が「や、やっぱりバレンタインデー当日に二人きりで食べるなんて……何だか……は、恥ずかしいですよ」と、いつもは見栄を張ってクラスでは両耳をピンと立ててるミルナが真っ赤な顔で両耳を垂れさせつつモジモジしながらそんな風にふざけたことを言ってきたのだ。 (何だ……こいつ____やっぱり変わった奴だな……) その時は思ったのだけれども、その変わった奴に恋する自分だって随分と変わった奴だなと思い直した。 そして、このように提案したのだ。 「うーん……じゃあ、今日じゃなくて明日なら構わないんじゃないか?あと、俺らはクラスメイトで……そもそも、こ……こい――恋人同士になったんだから、その敬語使いは止めろよな」 気恥ずかしさから、思わず声が裏返ってしまう俺の様子を見ながらミルナは決してクラス内では見せることのない、はにかんだ笑みを浮かべつつコクリと頷いたのだ。 * そして、今に至る____。 窓の外では雪がしんしんと降り続けている。 今日は、バレンタインデーの翌日ということと学校は午前中で終わりだった。 そのため、ムードたっぷりに町中にあるお洒落なカフェにでも行ってから家でチョコレートを二人で食べようと思ったもののあまりにも温度が冷え込んできたせいで寒さに弱い俺は早々にカフェに行くのを諦めて結局は家に直帰したのだった。 「まあ、そのことについてお前が嫌ならこれ以上は聞かねえけどよ――もうひとつ聞きてえことがあるんだよ」 「他に……ボクに聞きたいことって何ですか?」 今は、元々の垂れ耳兎に戻っているミルナの耳が俺がそう言った直後にピンと立った。おそらく、ミルナ本人は無意識のうちに耳を垂れさせたり立たせてしまうのだろう。 本当に見栄っぱりで――それでいて素直な奴だなと僅かばかり呆れながら笑みを浮かべたのだけれど、それと共にふっと脳裏に今日の休み時間の記憶が思い浮かんできて思わず眉をひそめてしまう。 『ミルナくん……いるかい?』 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いてから暫くしてから、あの爽やかな笑みを浮かべつつ教師ですら近づくのを戸惑う【狂暴クラス】に躊躇することなく堂々と入ってきた【愛玩クラス】でもなく【狂暴クラス】でもない【中性クラス】にいるオスの狐獣人___。 確か【ゼノ】とかいう名前の狐の獣人で、体育の三クラス合同授業で見たことがある奴だった。 しかし、それだけであれば単にゼノとミルナが友達同士であまり快くは思わないとはいえ、こんなにも気にかかることなどなかった。 俺が何よりも気になったのは、普段のクラス内では未だに両耳をピンと立てて見栄をはり、尚且つ恋人である自分に対してまでも敬語使いであるにも関わらず――有ろうことか、ゼノに対してまで本来の姿である垂れ耳をさらけ出し、更に敬語ではなくタメ口で話すミルナの様だった。 「あの……狐獣人のゼノとかいう奴とは……そんなに仲良いのかよ?」 「えっと……ゼノくんとは友達なだけですよ……ほら、カッカしてないでチョコレート……食べてください……せ、せっかく……ヨルのために作ったんですから……」 まるで、俺の問いかけから逃げるようにコタツから出て行きタンスに置いてあったチョコレートを取りに行くミルナの後ろ姿を悶々とした気分でジトーッと見つめてしまう。 「ん……っ____」 コタツに戻ってきたミルナに対して、大口を開けてある行為を待ってみる。 しかし、ミルナはキョトンとするばかりで俺が彼にやってほしいある行動のことなどまるで理解していない。 クラス内ではずば抜けて成績が良いくせに、こういうことに鈍感なミルナに対して僅かな怒りと呆れさえ覚えてしまう。 「…………」 「…………」 暫くの間、テレビから流れてくるバラエティー番組の司会の声しか部屋に聞こえなくなった。 すると、ふいに垂れたままだった耳をピンと立たせながら照れて顔が赤くなるミルナがハッとして何かに気付いた素振りをした。 (ったく……気づくのが、おそいんだよ……) 「は……はい、あーん!!」 「おお、なかなかうめぇな。お前――勉強以外にも得意なことあるじゃねえか……まあ、それはそれとして……っと____」 甘さ控えめなチョコレートが口の中に広がったのと、ミルナの照れくさそうな様子を見て満足した俺はモグモグと口を動かす。 そして、少ししてから油断しきっているミルナの腕を掴むと、畳の上に押し倒してピンと立たせたままの耳元でこう囁きかける。 どうやら、ミルナは見栄を張る時だけでなく緊張したり照れくさかったりした時も無意識のうちに両耳を立たせてしまうようだ。 「その……照れくさそうな顔は他の奴には見せるんじゃないぞ?あと、ゼノを含めて……俺が側にいねえ時に今度から他の奴と楽しそうに話したら……お仕置きしてやるからな」 「う、うん………分かったよ」 ようやく俺に対して敬語使いではなく、くだけた口調になったため更に満足した俺はニヤリと笑って、ミルナの頬へと唇を落としてチョコレートの味が残る甘いキスをするのだった。

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