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雄の虎獣人(義理の息子) × 料亭の女将(男だけど義理の母)

「ようこそ、いらっしゃいませ」 今宵も、女将である馨は訪れる金持ちな客達へと恭しく挨拶する。 ここは天下の料亭【乞い之鯉】____。 生きている者であれば避けては通れない欲求《食》、《眠》、《色》の全てを満たしてくれると人々から大評判の高級料亭である。 客がお腹が空かせば《食》を提供し、眠くなれば《寝床》を提供する。しかも、性欲に抗えなければ従業員自ら《色》を提供するという天下のお墨付きだ。 従業員は人間、獣人――共に働いているし、性別も男女共にいる。全対の数は遥かに男性の方が多いものの、男色が基本となるこの世にも少なからず女子(女性)がいいという考えの客らもいるため、その要望に応じるべく種族関係なく女子も常駐させているといった次第だ。 そして、そんな特殊ともいえる【乞いの鯉料亭】を纏め上げているのが女将である馨である。正式な名前は西園寺 馨という。 今はほぼ一人の力のみで料亭の経理運営を行っている。 とはいえ、かつて馨には夫がいた。 馨の性別は男だが、この世では男とて結婚することは可能だし、果ては妊娠することも不可能なことではない。更にいえば、それは種族の壁などお構い無しにすることができる。 【乞いの鯉料亭】の旦那だった夫に見初められ結婚した馨。夫には離婚していた雌虎獣人である先妻との間に虎の獣人である子どもをもうけて育てていたが、それをしっかりと承知の上で婚姻し夫婦となった。 しかしながら、この雄虎の獣人である子どもが馨に対して中々心を開いてくれないのだ。 彼と出会った時にはまだ幼くて夫の背中に隠れて、もじもじしていた。最初は、それが年相応の照れからくる自然な反応だと思っていた馨。 けれども、夫と結婚し共に生活し始めて一緒に育て上げてきた子どもが成長していく上で、その考えが間違いだったことに徐々に気付いていくこととなったのだ。 夫は、雌虎の獣人だった先妻との間にできた実の息子を心の底から愛してなどいなかったのだ。 そもそも、先妻に恋愛感情などいないていなかったのだろう。全ては【この世において周りから蔑まされがちな雌虎獣人である先妻を大事にして娶る】という善人アピールのためだと馨は元夫と過ごしていくうちに薄々気がついてしまった。 更にいえば彼女と正式に別れてからも、【産みの母に捨てられた可哀想な子どもを引き取り立派に育てて上げる】という、世間から悪く思われない保身のために息子である子どもを愛してる振りをしているだけだった。 元夫は、血の繋がりがある筈の息子である雪を住まい件仕事場である料亭内では完全に無視していた。ただし、それも周りに従業員や客がいる前では決してしないで偽りの笑顔で接していたのだ。 立派な父親である自分が、世間から悪い印象を抱かれないように。 そんな寂しく氷のように冷たい家庭で過ごさざるを得なかった義理の息子の雪(セツ)は、後に義理の母となった馨に対して、段々と心を閉ざしていき、やがて挨拶さえも碌にしてくれなくなっていった。 つい先刻も、そうだ____。 親和人獣高等学校から帰ってきた雪と廊下ですれ違ったため、馨は「おかえり。今日はお友達の夏己くんと遊んでこなかったの?」と少しばかり遠慮がちに声をかけた。 しかしながら、目線だけは此方へと向けたものの結局は何も言わずに雪は通り過ぎていって自分の部屋に閉じ籠ってしまった。 こういう時、本来であれぱ怒るべきなのだろう。けれど、血の繋がりがない親子である以上、余計に関係が捻れてしまいそうで怖いと感じてしまう。 (もしも血の繋がった親子なら……堂々と叱っったりできるのだろうか____) 思わずため息が出そうになってしまうが、そんな惨めな姿を足しげく通ってくれる常連の客達に見せる訳にはいかない。 それゆえ、今日も今日とて無理やり笑みを作って【高級料亭の女将】に相応しい対応をするしかないのだった。 *

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