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第2話

俺たちは近くにあったベンチに座った。 「あっという間だったなぁー」 「ああ」 両手をベンチ付け、さっき菜生が見ていたように水色の空を見上げる。 春風が木々を揺らす音。 ヒバリの鳴き声。 遠くで聞こえる学生の声。 嫌じゃない沈黙が流れる。 きっと横に座っている恋人も、同じように空を見上げ、同じように思っているだろう。 俺たちは、しばらくその沈黙を楽しんだ。 「なぁ、菜生」 俺は空を見上げたまま菜生に話しかけた。 「んー」 「ホントにいいのか?」 「何がー?」 「俺との二人暮らし」 俺は、ずっと気にしていたことを口にした。 「ルームシェアな」 「一緒だろ。ルームシェアって言ったって、俺と菜生だけなんだし」 「まーそうだけど。で、何を今更?」 チラリと横見ると、菜生はまだ空を見上げたまま。 「うん。今更なんだけどさー」 俺たちは、この春から同じ大学に進学する。 勿論学部は違うが、頭の良い菜生と同じ大学に行くため、俺は必死に勉強した。 少しでも菜生と一緒にいたい。 その気持ちだけで、難関大学に合格したのだ。 合格発表ときは、菜生、そして両親と、涙して喜んだ。 そして、進学を機に家を出ようとも思っていた。 それも菜生と一緒にいるため。 菜生は寮生だった。 進学と同時に、ひとり暮らしをすることは容易に想像できた。 だから持ちかけた、ルームシェアしないかと。 はじめは渋っていた菜生だったが、俺の押しに根負けして、最終的には首を縦に振った。 俺は菜生のことが大好きだ。 はじめは、ただ気の合う友人だった。 それが変わったのは、いつからだろうか。 いつの間にか好きになってた、恋愛対象として。 でも、悩んだりはしなかった。 何故なら、菜生からも同じ雰囲気を感じたから。 菜生に告白した後、そのことを言ったら、『もし違ってたら、どうしたんだよ』と呆れられた。 そのときは答えなかったが、もし菜生が恋愛対象として俺を好きじゃなくても、菜生が俺のことを嫌いにならない限り一緒にいるつもりだった。 結局、今と変わらないのだけども。 そんな熱量の俺と比べて、菜生はずっとクールだった。 菜生が仕方なしに俺と付き合っているとは思わない。 菜生の好きは分かりづらいが、ちゃんと俺のことを好きなのは、菜生の言動の端々で伝わってくる。 けど、ここ最近、ルームシェアの話を持ち出してから、たまに菜生が複雑な表情をするようになった。

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