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第3話
俺のことを嫌いになった訳ではない、と思う。
竹を割ったような性格の菜生だから、嫌いになったらすぐに別れを告げるだろう。
ただ、俺の気持ちが重いだけなのか。
恋人同士だが、俺の我儘で押し切った感が否めないルームシェアに、罪悪感がないわけではない。
だから、最終確認として聞いてみたのだ。
もし、やっぱり無理だと言うなら、憧れの二人暮らしは諦めよう。
大学は一緒なんだし、焦ることはない。
このルームシェアによって別れるなんてなったら、本末転倒だ。
「なぁ」
不意に菜生の声が聞こえた。
「明日、買い物行くんだろ」
「え?」
その言葉に、菜生の方を見る。
やっぱり水色の空を見上げたまま。
「オマエ、ずっと言ってたじゃん。"卒業式の次の日は一緒に新生活用の買い物するから、絶対予定入れるなよ"って」
「う、うん……」
「一緒に行かねーと、オマエ妙なもん買いそうだし」
そう言って、見上げていた顔を俺の方に向けた。
「俺は、ペアグッズだらけとか嫌だかんな」
冗談っぽく嫌そうな顔をする菜生。
その顔に、モヤっとしていた気持ちが一気に晴れる。
「えー、ペアグッズ買わないの!?」
俺も、冗談っぽく大袈裟に言う。
「ハーッ!?買うわけねーだろ!!」
菜生は笑いながら立ち上がり、
「さてと、帰りますか?」
両手を上げ、グーッと背伸びをする。
「菜生、今日、ウチに来ない?」
卒業式だが、菜生の両親は来ないと聞いていた。
「どーせなら、俺ん家泊まって、明日、そのまま一緒に買い物行こうよ?」
俺はベンチに座ったまま、菜生を見上げた。
「なーに言ってんだよ。今日はおじさん達と、お祝いのディナーなんだろ?」
一人っ子の俺は、両親と仲が良い。
卒業式の日に、大学の合格も兼ねてディナーに行く予定を入れていた。
「菜生が一緒でも、父さんも母さんも何も言わないよ。逆に、喜ぶかも!」
俺の両親は、俺と菜生との関係を知っている。
大切な両親だからこそ、大切な菜央とのことを分かってほしくて、付き合いだして早々に、菜生との関係を話した。
流石に二人とも驚いていたが、息子の話にしっかり耳を傾けてくれ、笑顔で理解してくれた。
「受験が終わるまで、おじさん達と一緒にご飯食べてないんだろ。折角の親子水入らずに、邪魔するわけにはいかねーだろ」
「でも……」
断られて不貞腐れた顔をしたが、
「そんな顔したって、今日は行かねーからな」
やっぱり駄目だった。
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