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第2話

手続きをするために書類を確認する。転入届けと離婚届を一緒に持ってきたということは、すでに別居生活にはなっていたということだろう。正式な、役場上の手続きを終えれば、彼は晴れて「バツイチ」という称号を手にすることになる。  パチパチとキーボードを打ち込みながら、羽柴はぼんやりと考える。 「(なんかあったのかな、あの人)」  パッと見た感じでは、到底、離婚を言われるような人ではないような気がするのだが。 「(案外めちゃくちゃ亭主関白だったりしてな。んで、奥さんはそんなこの人に愛想をつかして別居中、親権は私が受けるわ~…みたいな感じか?)」  窓口に来る人の人生なんてそんなことを羽柴は知らない。けれど、提出される書類は、ライフステージの転換を意味するものばかりだ。  どんな経緯があってここに来たのか、勝手な妄想を張り巡らせるのはもはや仕事中の逃避にも似ている。書類を見ながら、事務手続きを行い、窓口に戻るまでの一瞬で張り巡らせた考えを霧散させた。 「(…あれ)」  パソコンの画面から目を離して、ふとその住所を見ると見知った文字の並びがあった。 「(家、近くだなこれ)」  見れば隣の区画だ。番地が違うくらいで居住区は近い。ふうん、と思いながら羽柴は窓口に戻る。 「大変お待たせいたしました。ひとまずこちらの届の受理が完了しまし――」  言いかけて、その言葉を止めたのは、彼が――豊田が俯いていたからだ。鼻を啜る音が聞こえて、思わず羽柴はカウンターから身を乗り出していた。 「…だ、大丈夫、ですか?」 「あ、ああ…すみません。大丈夫です」  ちょっと目にゴミが、と言いながら豊田という男性は眼鏡の奥の瞳をこする。ブランド物の、皺が寄ったハンカチをカバンの中から取り出しながら目をぬぐう姿を見ながら、羽柴は胸が締め付けられるような思いだった。 「……ええと、その――」  言葉に迷っていると、豊田はああ、と顔をあげる。 「……っ、お見苦しいところを、失礼しました。ええと…、手続きは?」  ぎゅ、とハンカチを握りしめながら、豊田は笑う。まさかこんなところをみられていたとも思わず、手の甲でごしごしとこする豊田に、羽柴はわずかに迷いながら告げた。 「……転入届は、受理いたしました。今、離婚届の方の手続きを――行いますね」

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