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第3話

公務員という仕事を選んだのは安定性があるからだ。そこに使命感があったかといわれると非常に微妙なところで、ただ漠然と誰かのためになりたかった、という子供じみた思いがあったくらい。  住民課に異動になってから、来る日も来る日も窓口対応に明け暮れているうちに、たくさんの人間を見てきた。  離婚だって、転居だってそれは単なる書類の移動でしかない。  悲しいことにそういう認識になってしまうのだ。 「(……でもあの人にとっては大きな選択だったんだろうなあ)」  転居届と離婚届けを同時に出した週末の男性のことを思い出しながら、羽柴はゴミ捨て場へと向かう。  あんなふうに窓口で泣きだす人を見たことがなかったわけではない。感極まった女性たちの中には、離婚届の提出の時にそうやって感傷的になる人もいたのだ。 「(あの人、大丈夫だったかなあ)」  ただ、男性が離婚届けを提出してあんなふうにボロボロと泣き出す場面に遭遇したかと言われればそれはあまり記憶にはない。どんな気持ちであの、よれよれのワイシャツの男――豊田は、あの場にいたんだろう。  漠然と思いながら、羽柴は立ち上がる。テレビを消すと、玄関先にまとめてあったゴミ袋を手にして部屋を出た。    羽柴の家は職場まで徒歩十五分。坂を上り切った場所にある。  首都圏からは電車で三時間、車がないと生きていけないほど、広大な土地があるこの地で、羽柴は大学を卒業してから念願の一人暮らしを始めていた。  実家を出たのは就職してから2年ほど経ったときで、当時付き合っていた彼女との同棲をするつもりで部屋を決めた。  …だというのに、同棲を初めて3か月で破局。残されたのは、ちょっとだけ高い家賃と一人で住むには広すぎる部屋だった。  別れてから彼女というものに縁がなく、職場と家の往復をする日々だ。  週末は何をするでもなく寝ているだけで過ぎていく。予定もなく過ごした月曜日の憂鬱さは筆舌尽くしがたいものであった。  羽柴はゴミ袋を片手にだらだらと歩きだす。数分の場所にあるゴミ集積所までやってくると、そこには先客がいた。

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