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明日から
「俺達は休日よくこの公園にいるから、会いたくなったら、またおいで」
そう言い残し、彼は息子さんと手を繋ぎ去って行った。
えっ……呆気ない。
僕の方が名残惜しくなり、遠ざかって行く彼らの会話に、思わず耳を傾けてしまった。
「パパ、うまくいった? さっきのナンパっていうんでしょ~」
「そんなんじゃないよ。パパはね、あのお兄さんを、ずっと前から知っていたんだ」
「えぇ? じゃあ……なんでさっき『はじめまして』なんて言ったの? 」
「うーんそれはだな……弱っている所につけ込みたくないからかな。今日は励ますことが出来ただけで満足だよ」
「ふーん『おとな』ってよくわかんないよ」
「ははっ、いつか分かるよ。幼い芽生にも」
えっ、今なんて言った? さっきの『ナンパ』だったのか……いやそうじゃないよな。僕を一体どこで見ていたのか、思い当たらない。しかし思いっきり泣いたお陰で、すっきりとした。
それに『幸せが復讐になる』という、意外な言葉を受け取った。
一馬との別れの悲しみが、少しだけ和らいだ。
***
公園で思いっきり泣いた僕は、一馬が消えた家に帰ることが出来た。
部屋の半分が空洞になった寂しい光景だったが、さっき沢山泣いたお陰でもう涙は零れなかった。
「僕も幸せになろう。それが一馬への餞になるのかも」
時間はかかるかもしれないが、前向きな気持ちになっていた。
明日から生まれ変わろう。
大好きだった一馬を、すぐに忘れられなくても、少しずつ忘れて行く。そうやって生きていこうと思えるようになったのは、やはりシロツメクサの魔法なのか。ポケットの中の萎びたシロツメクサの指輪を見ると、自然と笑みが漏れた。
「萎びてしまったが、元気をもらえたよ。一馬の言った通りだ。ちゃんと水を取って生きて行かないとな」
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