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第3話
部屋に着き、静也君にドアを開けてもらうと、当然言われた通りの、さほど広くないツインだった。ベッドの距離も近い。
いや無理だ、酒も入ってるのに、この距離で密室に一緒にいて、手を出さずにいる自信がない。やっぱりどっか、他の所で夜を明かした方がよくないか?
とか動揺しつつ、静也君と二人がかりで、きちんと翔一郎さんを寝かせる。ベッドに入るなり、気持ちよさそうな寝息をたて始める横顔。
俺は金髪をかき上げながら、翔一郎さんを見下ろした。愛しい。欲望との戦いになろうと、やっぱり今夜は翔一郎さんの寝顔を眺めて過ごしたい。そうも思う。
「さ、今度はハル迎えに行かないと」
なんだか楽しくなってきて、俺は静也君に笑いかけた。お前らはよろしくやれよ、なんて思いながら。
「隆宣さんて……」
「なに?」
部屋を出て、エレベーター前まで来たところで、静也君がためらいがちに話しかけてきた。俺が静也君を呼んだのもちょっと話がしたかったからで、壁際に置かれていたソファに座る。
「実際のところ、翔一郎さんのこと、どう思ってるんですか? 本当に好きなんですか?」
そう来るか。そっちはそっちで、俺達のことを気にしてたのか。
いかにも思いきって言った、という表情。若いな、と思う。俺と一つしか変わらないのに。
「好きだよ」
静也君の力んだ顔を見上げて、さらりと言う。
「それって……」
「恋愛感情だけど?」
この想いを、誰かに向けて言葉にしたことはない。当たり前だ。言えっこない。俺は誰かに打ち明けたかったのかも知れない。
俺があまりにもきっぱり言ったもんだから、静也君は絶句した。
「これだけはどうしようもないんだ。俺は、あの人が好きだ」
翔一郎さんに言えない代わりに、俺はこれ以上ないほどの真剣な顔を作って、静也君を見つめて言った。
「静也君は? 今日これから、ハルとのことどうにかするんだろ?」
「えっ……」
表情をうかがいながら言うと、静也君は一歩のけぞり、顔が赤らんだ。人をからかいたくなるのは、俺の悪い癖だ。
「あんな熱烈なラブソング歌われちゃ、こっちもたまんないよ」
背の高い静也君を上目遣いに見て、片頬で笑ってみせる。お前らはいいよ、ハルが全盲だってことも、恋愛の障害になってないみたいだし。たぶんうまくやれるだろう。
「いいじゃん、難しいことはヤっちゃってから考えたって。ハルがあんな大胆な告白してきたのに、できないとか言わないよな?」
脅しみたいになってしまい、内心おかしくなる。このよく整ってると言われる顔立ちのせいで、出したくもない威圧感と鋭さが出てしまう。分かってる。でももう、コントロール不能だ。
「そ、そりゃもちろんですよ」
裏返りかける声。今この時も、静也君の頭はこの後のことでいっぱいなんだろう。俺と違って押し倒せばそれでOKだろうに、なにを気にすることがあるんだ?
「でも、実らないままの方がいい恋もある」
言ってしまうと、心がぐしゃりとつぶれる音が聞こえた。俺には、一生それでいいと思える強さも悟りもない。好きで、欲しくて、子供がおもちゃを胸に抱くように、抱きしめて離したくない。
「うらやましい……」
つぶれた心の、遺言のようなつぶやき。でも俺は知ってる。そんな心を復活させるのも、あの人だってことを。
やっぱり俺もだいぶ酔ったらしい。心がぐらぐらゆらゆら、忙しい。早く翔一郎さんの顔が見たくなる。
「さ、早く据え膳食いに行けって。一人で平気だろ?」
立ち上がり、静也君の頼りがいのありそうな肩を、一回だけ大きくたたく。静也君の顔は見ず、その場を離れた。二人が無事くっついたら、また会うこともあるだろう。別れは惜しまず、俺らしくあっさりといきたかった。
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