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愛しの浬委さん
突然だけど、いまオレは転校先の学園に新幹線と電車で乗り継いで向かっている。
こんな事態が起きるなんて1ヶ月前のオレは思っていなかった。
1ヶ月間、いろいろあった……。
浬委さんとの婚約、父さんの倒産寸前の事態。そして編入試験……。
ここでちょっと浮かれ気味だったオレは、ひとつ勘違いをしていたことがある。
実はオレって父さんの借金の形(小切手)に売られたんじゃないかってことだ。けど考え直したら、オレにはとても良い条件なワケで……だってだって浬委さんをお嫁さんに迎えるわけで……!!
だけど浬委さんにしたら迷惑で理不尽な話しだ。親に決められた結婚を押しつけられたことになるんだから……昔で言うなら政略結婚だってスマホで調べた。そう思っていたけれど――
『浬委はまったく迷惑なんて思っていないです。むしろ嬉しいです……尚史君のお父様の会社の手助けが出来るなんてとても幸せなんです。それとも尚志君は浬委なんかとはご迷惑ですか?』
スマホの文字に打たれた言葉に鼻血が垂れた。それも、り、浬委って…!
健気だと思った。なんて尊い人なんだって。
だから、こんな大切なことを借金の形なんかで成立させたくないと言ったら、『それならば、浬委をもっと知って下さい!浬委の学園に転校していただけるのって駄目ですか?』
『え!浬委さんの学校にですか?!!』まさか、こんなオレをそこまで望んでもらえるなんて思っても居なかった。でも、さすがにそれは無理があると思って断ったら、電話に変わった。
――ぼ、わたし!の、傍にいてほしいんだ、のっ!!
久しぶりに聞く浬委さんの声はちょっと低めで掠れていた。風邪だと心配だけど…。それもそんなに慌てて必死でいて、なんて可愛い人なんだと思う。
――わかりました。編入試験、頑張って見ます。
――なおしくんきてくれるやばい…!あ、えっと…試験問題とか、せんせいからリークしておきますね!
――それはやばいですよ。……あの、浬委さん?
――はい、尚史君
――ありがとう。受かればだけど、あ、受かるように頑張るけど、残り少ない高校生活、オレも浬委さんと一緒に過ごしたいから……だから、ありがとうです。
――…ッ…尚史くん大好きです!今すぐキスしたい!寮じゃなければ会いに行っているのにな。
――えっ…あ、えっと…うー、合格して編入…した…ら……?
もごもごと呟いたので聞こえたか分からないけども、それよりも電話で話す浬委さんはパーティの時よりは砕けていてちょっと積極的でもあって意外だけど、こんなに明るい浬委さんをこれからもっと知りたいと思う。
普段の浬委さんは全寮制の学校に入っているので殆ど会う事は出来なかった。
――絶対ですよ?約束しましたからね
オレはそれから猛勉強をして、浬委さんの通う私立ラフィース学園の編入試験に合格した。
この時、オレは浬委さんの在学している学園は男女共学だと信じて疑うことなんてなかった。
編入試験の時は地元のホテルの一室だったし、とにかく急な事で調べることや聞くこともなかったのだ。
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