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エレベーターキス

勘違いで返事をしたのがちょっと恥ずかしくなって、オレの後ろを何気なく見たけど誰もいない…。 考えてみてもこの学園には浬委さん以外に知り合いなんていない。 そういえば女子だと思ったら良く見ると制服はズボンを履いてる……こ、これで男子なの!?え、うそ!? 「??」 「プチプリ?こちらの生徒は転校生のようだけど――」 「そ、そうなの!理事長のフォンおじさんから頼まれたので、あの…待っていました。一緒に着いてきてくれますか?」 プチプリって呼ばれた生徒は手を差し伸べると腕を掴むというか手を繋ぎ始めて、それ以上何も言わずに歩き出した。オレは良く分からない状況にクエスチョンが回っているけど、背の高い生徒は片手を上げて笑顔で見送っている……この状況を止めてくれないんですか!? 身長はオレと同じか少し高いかな……女子でも背の高い人はいるから(現に浬委さんも)女子なのかとやはり思ってしまう。ジーっと真横にあるきれいな顔を見るのもはばかれるのでずっと下を向いて歩いているけれど気になるもので…。繋がれている手は固くもなく柔らかくもないけど性別的には分からない。ふわっと柑橘系の香水の匂いもする……スンスンと嗅ぐオレって変態かな。焦思したところで浬委さんの知り合いかもしれない。女子の浬委さんが男子のオレを連れ出して案内するのは目立ってしまうからだと思って。 それにしてもなぜ、理事長室なんだろうと思うけど、エレベーターで行くようで無言の空気で待っているのも何だからオレの方から無難に声を掛けて見た。 「もしかして、久留米浬委さんの知り合いですか?」 「……です」 「えっと……そうなんですか?」 よく聞き取れなくて聞きなおしたけど、エレベーターのドアが開いて握られていた手に強く力が入ると、サッとエレベーターに飛び込むように入った。 この手もなんだか……?? エレベーターのドアが閉じて何かのカードをスライドしたら静かに上昇した。 エレベーターに乗ってもまだ手を繋いでるこの人。困るので繋いでる手を離そうとして動かした。そうしたら強く握り返されて、「ごめんなさいっ」と謝られた。 「あの…」手を離してほしいだけなんだけど……? 「生の尚史くんを見て緊張しちゃって……!言葉も出なくって、つい、黙って連れてきてしまったので……」 握られた手から伝わってくる少しの振動。な、ま?オレはこの人にどこかで会ったのだろうか……やはり父さん関係だとか? 浬委さんもどこかで会ってオレを知っていたと言われたけど。思わぬ場所で人に見かけられるから…変な姿を見せられない、なんて苦笑いをしていたらグイって腕を引かれたと思ったらきれいな顔が近づいてきて、唇に柔らかいものが触れた。 「!?」オレは驚いて力任せに突き放した。 浬委さん以外からキスをされた!!それがショックでそれしか頭になかった。 「約束だったから…尚史君と…ぼく……」 最上階にエレベーターが停まると、オレをエレベーター内に残して重厚な扉の向こう側に消えた。 『尚史くん大好きです!今すぐキスしたい!寮じゃなければ会いに行っているのに…』 『えっ…あ、えっと…うー、合格…した…ら……?』 『絶対ですよ?約束しましたからねっ』 浬委さんとの約束に淡い期待を込めていたけれど、どうしてあの人が『約束』って……。頭にはある仮説が浮かぶけど……でも、そんなことは絶対にありえない。 浬委さんが実は、あのきれいな男子高校生だなんて!!

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