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嫌な予感

浬委さんが男……? ううん、何を考えてるんだよオレ!そんなワケないし浬委さんは、こ、婚約者だし!!父さんの融資の件は置いておいて、浬委さんの家からオレの家にスルメとかの結納の品を賜ったって事で婚約成立してる……ん?なんか今、引っかかった気がしたけど…?……そうなんだよ、婚約したって事は両家の親も承認済みって事だし!! 一度はエレベーターから降りたけどオレには事務所に行きたいのであって、理事長室なんて学園の偉い人に会う意味合いはないと思うのでエレベーター内に戻ろうとしたところ、 「待ちたまえ!玉井君!」 低めで良く通る渋い声が聞こえた。それもオレの名前を呼んでるけど……? エレベーターから顔をちょこっと出すと綺麗な銀髪が目立っていて、濃紺でシルバーの細いストライプの三つ揃えのスーツを着た日本人離れしたダンディな人が重厚なドアから出て来てオレを手招きしていた。 「……?」 初めて見るけど、たぶんあの男の人は理事長なんだろうな。オレが編入転校生だからか名前まで知っているんだ……やっぱり時季外れの転校生は目立つのかもしれない。 ぺこんと頭を下げてお辞儀をしたけど、乗っているエレベーターのドアが閉まりそうになって、このまま閉じれば良いのか開けた方が良いのか見ていたらガシッと理事長が閉まりそうなドアを止めた。 「待ってと、言ったのだが?」 器用に片眉を上げて精悍な顔が歪むのを見せて、オレはすかさず「すみません」と謝った。こ、恐い人? 「来て貰って宜しいかな?」今度はにっこりと微笑んで優しい顔になった。 呼ばれたらもう行くしかないので、理事長の後を着いて行った。 理事長室に入るとすんばらしい調度品がズラリ!理事長室としては普通なのか良くわからない。因みに父さんの社長室は健康食品のパッケージやサンプル品で埋まってたりするので汚い……比較するのが悪い気がするけど。 「先ほどはすまなかったね、急いでいたものだから。転校生の玉井尚史君だね。私はラフィース学園の理事をしているフォン・タチバナと言う者です。まずは我が学園に良く来てくれましたね、歓迎しますよ」 「あ、ありがとうございます……」流暢な日本語で話すから驚いたけど、理事長は外国の人だった。深い青色の瞳がきれいだ。 「浬委のたっての我が儘でもあるようだが、私からも礼を言いますよ」 「え、浬委さんのこと……」 「私は浬委の母親の姉をワイフにしてるから、身内になるのだよ」 浬委さん、理事長と親戚って…凄い!!それじゃ、もしかして浬委さんとのことを知っているんだ……急に額に汗が滲んで頬が熱くなる。 応接室に案内されてふかふかのソファに座った。浬委さんの親戚だって言われると理事長としてより緊張してきた。 そういえば、さっきの男子高校生が居ない気がするけど、理事室へ入ったのに何処に行ったのかな。 テーブルには色鮮やかな小さなマカロンやクッキーの籠があって、召し上がれと進められたので青い色のマカロンを一個手に取った。青い色のお菓子って食べたことない。 「うむ。私と話しをしても先が進まないね。まずは……浬委、出てきなさい!」 「え!…り、浬委さんがこの部屋にいるの!?」 「今日、到着する玉井君を心待ちにしていたようで理事長室に連れて来て紹介すると言っていたのだが、来たと思ったら浬委一人書斎のある個室に閉じ籠もってしまってね……どうしたものかと部屋の外を見たら玉井君が見えたので、何かあったのだと思ってね」 頭に浮かんだのはさっきのキス事件。先ほどの美少年。……浬委さんじゃない。 「久留米浬委さんは、オレと婚約した…同じ年齢で、濃い茶髪の腰までのサラサラロングで、薄紫色のミニドレスがとても似合っていて、お姫様のような清楚な美少女の……浬委さん…ですよね?」 声が少し震えていた。でも浬委さんが女の子だって自信はあったんだ。はずなんだ……。 「なるほど。浬委が君と出会ったのは『そういう趣向の浬委』なんだね。それは――」 「フォンおじさん!……それは僕から話すよ」 カタンと奧から開いた個室のドアから出てきたのは、見間違う事なんてない先ほどの美少年だった。

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