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思わず、手を引くどころか繋いでしまった。それも恋人繋ぎ!! 目だけ泳がせて尚史くんの横顔を除くと俯いてはいるけど頬が赤い。あ、僕を意識してくれてるのかな?だと、嬉しいなぁ!……僕の掌から尚史くんの熱が伝わってくるよ。 『なま』で手に触れたのは初めてだね。そもそもパーティのあの日から会うのは初めてだね。 話したいことは山ほどあるのに、今は緊張しちゃって話も出来ない……尚史くんもそうなのかな?えへへへ。 理事長のフォンおじさんの所にまずは案内したい。エレベーター前に着くと尚史くんの声が風に揺れて耳に流れてきた。 「もしかして、久留米浬委さんの知り合いですか?」 …… ……。何を言ってるの、僕です!! 「……です」 「えっと……そうなんですか?」 僕がわからないなんて嘘だぁ……どうしよう、声が出ない。 エレベーターのドアが開いたので、今は尚史くんの手をぎゅっと引いて駆け込むしかなかった。 どんなに考えたって僕がわからないなんてそんなことない。 「ごめんなさいっ」 尚史くんはやっと僕の方を向いてくれた。きっと、そう、きっと僕が何も説明しないで着いたばかりの尚史くんを説明もなく黙って連れて来てしまって、だから怒ってるのかも……。 『浬委は盲目的になると猪突猛進気味になるから気をつけろよ、皮剥がれるぜ~』 友人の櫂矢(かいや)に言われたことが今になって痛烈に思いやられるなぁ……。 「あの…」 そうだ、反省しなくちゃ!!今すぐに!! 「生の尚史君を見て緊張しちゃって……――」 尚史くん全てを視野に入れるだけで緊張して震える僕もどうかと思う。 今、初めて真っすぐに僕を見てくれている尚史くん。 僕の可愛い尚史くん。やっと僕の懐に来てくれたね、尚史くん。 両腕に縋るように持ちながら、チュッと尚史くんの薄い唇に二人で交わした『約束』のキスをしてしまった。 我慢できないのは僕の癖です、ごめんなさい。 ドンッ え!? 僕は尚史くんに突き飛ばされて、エレベーター内の壁に少し強く背中を打ち付けた。見上げるとみるみる尚史くんの顔色が変わっていく。 キスをした唇を袖もとで強く拭かれて、僕をまるで拒否をするように尚史くんは怖い顔をした。 「約束だったから……尚史君と……ぼく……」 なんだか、おかしい。 尚史くんは本当に僕を知らない人のように見る。 どうして――? 僕はエレベーターが止まると、尚史くんを置いて理事長室に駆け込んだ。 尚史くんの豹変のその訳は、フォンおじさんが尚史くんを引き留めて理事長室に入って来た時に隠れて聞き耳をしたときに理由が分かった……。 僕を本当の『女の子』だと思っていたのだ。 そう……父の提案によって女装したあの日から――父の心弾んだ『おもてなし』を実行した僕 その時から、僕は罪を犯してしまっていたんだ。 『浬委さん』 でも、僕は尚史くんに再び出会えたことが嬉しかった。 僕は尚史くんが初恋だった。幼い時から……。 この恋は、実らないのかな……? 「尚史くん、い、言いますよ!? ぼ、僕は、男です!!!」 僕は男で、尚史くんも男で、それでも大好きで。 僕のお嫁さんになってくれるなんて……夢だったのかもしれないね。

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