14 / 47

14 あなたに会えてよかった

確かにオレは浬委さんを一目見て可愛い人だと思ったよ。 頬を染めてはにかんで。 オレの名前をしっかりと呼んでくれて、可愛らしく目を向けて微笑んでくれた。 作った微笑みじゃなかった。嘘なんて一度もなかったはずだった……。 16年間、まともに“彼女”なんて呼べる女子なんていなかったオレは本当に浮かれていたんだ。 婚約が決まったあの頃、学校でもニヤケ顔がダダ洩れで友人の井上に白状する羽目になった。それでも『良かったな』ってからかいながらも祝福してくれた。やっぱり井上は真の友人だ。 クラスに安住あゆかって女子が居る。以前に付き合っていた……とオレは思っていた元彼女。今は、イケメンと有名なカッコイイ彼氏が傍に居る。 既に、終わったことだけど傷心の気持ちはまだ少し引きずってはいた。 デートと称して外に出ても絶対に二人にはなれなくて、必ず行先にはあゆかの友人が付き添ってきていた。 オレと一緒に歩くよりあゆかとその友人が何だかメインだった。オレは荷物持ち……馬鹿だと思うけど、何度目かのデートだけど実際には二人だと緊張するし、遊び慣れていて派手で何でも知っているあゆかをエスコートするなんてやっぱり出来なくて。だから3人で食べたり遊んだりショッピングに付き合ったり買ってあげたり、財布の中身は早いペースでなくなるけどオレだって男だしキレイな女の子を連れて歩くのは嬉しかったんだ。 キスは一回した……『してみる?』なんて挑発されるから。 次はえっちもしたい、男だもの。けど彼女の派手な外見とは真逆のかなりそういうことに奥手で、手を繋ぐだけで怒った。マジ激怒でこわかった。 気位が高くて我がままな彼女だったけど好きだった。好きでいようと思った。 でも、父さんの会社が傾いたとき、タイミングよく言われた言葉は……。 『ごめんね。あたし、好きな先輩が出来たの。だから声を掛けないで?誤解されちゃうから』 ゴォーンと頭に鉄の金づちを打つ付けられたような感覚になり暗闇にシャットアウトした。 オレは予測できないことが起きると脳内がシャットアウトする癖があるみたいだ。 更に嫌なことが続くもので、数日後にあゆかと新しい彼氏とキスシーンを見てしまった。 オレには決してなかった彼氏の首に纏わりついて長くて濃厚なキスを仕掛けてるのが彼女だった。 もう、笑うしかなかった。 馬鹿なオレはモテていたって一人で浮かれていて……それでも玉井の家とお金が目的だったなんて思いたくなかったけど井上が哀れむように包み隠さないで言ったのが一番傷ついたかも……。 冷え冷えだった心だったけど、案外回復が早かった。もう女の子は懲り懲りだなって思っていた。 そんな時に、父さんと一緒にパーティに出席して浬委さんと出会った。 オレはやっぱり馬鹿で、可愛くて朗らかな浬委さんに一目ぼれした、と思う。 最初は学習してないって井上に言われたけど、なんだか学校の今までの女の子と違って、オレに催促もないし馬鹿にしないし話を聞いてくれて無理強いもしない。 コロコロ笑う浬委さんは眩しくて。優しすぎて。 神様がオレに使わせてくれた人だって信じるくらい。今度こそ、お互いに幸せになるような付き合いをしたいって思った。 連絡を取り合って、婚約までして、そして浬委さんの在学してる学園に編入することになって、順調にいってるのが怖いくらいだった。 浬委さんの震える手を感じて、涙声の浬委さんが最後にオレに伝えようとしたこと。 『ぼ、僕は、男なんです!!!小さいかもですがついてもいるんです!!』 浬委さんの笑顔、浬委さんの声を聞いて――やっぱりあなたに会えて良かったと思ったんだよ。 嫌いになんて、この恋を簡単に諦めることなんて出来ないです。 「浬委さん……泣かないでよ」 ちゃんと言うから。そして考えるよ――浬委さんの事を真剣に。

ともだちにシェアしよう!