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30 プチプリ
寮の説明はまだ殆ど聞いていないけど、浬委さんに教わってそれも階段で5階から二人で話しながら1階に降りた。
階段は誰も使用しないのか生徒は見かけなかった。
「エレベーターは揉みくしゃになったり、ちょっと騒然となって大変なんだ。階段だと尚史くんと手を繋ぎながら歩けるし話も周囲に気兼ねしなく出来るから良いと思って……どうですか?」
「え、あっ、はい!是非っ」
にっこりと安心したように浬委さんは微笑む。僕は良いけれど、5階からだから浬委さんは大丈夫なのかと心配だったけど、1階に降りる時も浬委さんは元気だった。
一階フロアに出ると生徒たちが何人か居て、浬委さんに視野を向けると近づいてきた。
何だか厳つい生徒だけど……。
「プチプリ、おはよう」
「ごきげんようプチプリ。今日も麗しいねぇ」
「浬委姫、やっぱかわいいなぁ」
浬委さんは3人の生徒に向けてキリっとした態度に変わり、顔の表情もなんとなく引き締まったようになって、「おはようございます先輩方。恐縮ですが僕は久留米です、そうお呼びくださったら嬉しいですね」ニッコリと綺麗に微笑んだ。
ちょっと厳つい3人の生徒はその場でぼーっと立ち尽くしているけど、顔が何だか赤い。
何の魔法を使ったのだろう?それに――
「プチプリってなんの意味なんだろう?」
独り言をつぶやいていたのだけど浬委さんがはにかみながら教えてくれた。
「小さなプリンス…それでプチプリって意味なんだって。どう考えてもプリンセスの意味にしか聞き取れないんだけど、しょうがないネームだよね、嫌になっちゃうよ」
ああ、なんとなくわかるなぁ、浬委さんが小さなプリンセス――けど浬委さんは男だから抵抗あるんだろうな……。
「尚史くんにはプチプリなんて耳に入れて欲しくなかったのにっ!」
ぷんすかと頬を膨らませてる浬委さんはやっぱり可愛い。でも――。
「浬委さんは男性だし、そういうの抵抗あるのってわかるから」
「……うん。尚史くんには“浬委”って呼んでほしい。僕も尚史って…よ、呼べたらいいなぁ!」
呼び捨てなんて……!
浬委さんがそんなことを言うのもだから照れてしまうけど、浬委さんも照れている。
「そうですよね、えっといつか、自然に…言えたら……」
「もっともっと、僕たち進展しなくちゃ駄目ですよっ」
僕の腕を浬委さんの脇に通されて、なんだか腕組をさせてる。
僕が浬委さんに腕を組んでいるような図だけど……これまでの浬委さんを見てるとオレに触れるのが好きみたいだ。
抵抗はないんだけど、今までこんなべったりされた事がないのでどうしたらいいか分からないのが正直な気持ちで。
だから学校でも――なんて考えていたら浬委さんとクラスが違うことが分かった。寂しいのと少しほっとする自分も居たりして。
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