32 / 47
32 順風満帆
松井くんに予備知識として教えてくれたことは、実は1階にエレベーターがあるらしいけど、一般生徒などは理由なく使用は禁止されていて、役職や緊急性のある生徒しか解放されていないので気を付けてくださいと言われた。
それと、A棟は専門学科、B棟は一般学科で、クラス分けとしてA棟はⅠ~Ⅳ組、B棟はⅤ~Ⅷ組となっている。
けっこうジャンボな生徒数の学園みたいで迷わなきか心配だけど、オレのクラスはB棟2年のV組になる。一番端の方だった。
ところで浬委さんは何組なのだろう?聞いてなかったなぁ……。
B棟の廊下を歩いていると分かったのだけど、A棟とB棟の間にはそんなに広くない吹き抜けの中庭がある。同じ2年なのに教室は別の棟だから離れているのかと思っていたけど、教室は向かい合わせなのには驚いた。だから、あわよくば浬委さんが歩いているところを見れたりできるのかな?
2年V組の教室に入ると、東棟2学年総長の松井くんがクラスメイトの前でオレを後押ししてくれた。
「転校してきました玉井尚史と言います。出身は――」
先生じゃないのが新鮮だったけど、オレは後れをとらないように名前と出身と一言の述べて挨拶をした。
緊張はあったけど、クラスの人たちはリンゴやミカンなどの果物だと思うことにしたら自然にすらすら言えた。
言い終わると拍手をしてくれた。けど、誰かがこの場で「君の家のブランドは?」
「ブ、ブランド?」聞きなれない言葉だったので聞きなおしてしまったけど、家柄の事だと松井くんが教えてくれた。
家柄を聞かれるなんて予想外だった……。
正直に通販コーポレーション『玉井』と答えた。なんとなく気後れするのはなんでだろう。
「その玉井って<健やかな健康を>の自然食品シリーズ通販の?一代で築いたっていうアレ?」
「え?玉井ブランド?マジ?ウチの母親ファンなんだよ~!一か月に10ケースも取り寄せしてるし」
その一言に周囲が父さんの会社の話題に沸いてしまった。
超お金持ちのようなここの学園生でもウチの玉井自然シリーズ製品を知っていて盛り上がっているのが……不思議だ……何気にお得意さんも多い。
それから少し商品の事を聞かれてたじろぐしかなかった。え、なんでウチってこんなに有名なんだ??
松井くんは眼鏡のブリッジを上げて、コホンと一度咳ばらいをすると生徒たちは静かになった。
オレの席は窓側だと案内してくれて、ひとまず席に収まった。
「おれ瀬川光季。よろしく」と隣の席の人、瀬川くんが明るく挨拶をしてくれた。
「あ、よろしくっ」
瀬川くんとは初めて会ったのに、なんだか前の友達に似ている雰囲気の人で親近感が湧いた。
窓側の席で良かった。なんか好きなんだ、窓側。前の方じゃなくて後方だったらもっと良かったんだけど……あれ?
窓を見ていたら中庭の奥に、教室らしい窓が平行に見える。
その窓からなにやら顔を出している生徒がいて……。
「あれぇ、浬委姫って席替えしたのかな!窓側に居るっ」
……あ…ぁ…。
「櫂矢くんとこっち見てない?」
「手、振って見よ~、あ。振ってくれた!!櫂矢くんだけど。」
まさか、浬委さんの教室が中庭を挟んでV組と平行になってるなんて思ってもいなかったです
――それも、気のせいじゃなかったらオレと同じところの席にありそう?
ともだちにシェアしよう!