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41 不安な一言
「なんだか……唐突で事情が呑み込めないけど浬委姫が凄い勢いで牽制していったね」
「尚史尚史ってめちゃくちゃ名前呼んでた」
「いつもの可愛らしい雰囲気の浬委ちゃんじゃなくて、めっちゃ勇ましかったな」
「可愛いらしいけど、男だった」
「ああ、浬委姫って男なんだな」
「俺らの黒板の名前、スマホで登録してたぞ」
「めちゃくちゃ世話してたけど、玉井って尚史っていうんだね。……でさぁ」
『どのようなご関係で?????』
話ながらも皆の視線が一括してオレの方を向いた。
気持ちが焦っていた。
「あ……玉井尚史」
そんなことを聞いていないのは判っているのに何だかよく分からずにフルネームを口走ってしまった。言ってから目の前がブラック仕掛けて傾きかけた。
『……こんな浬委さんは嫌だよ……!』
オレは、浬委さんに感情的になって言ってしまった。
嫌 だって言ったんだ、嫌 いって言ってない……。
ふにゃって顔を歪めて、大きな瞳から溢れ出そうになりながら涙をギュッと耐えていた。
どこかで泣いてるかもしれない……。
けど、クラスメイトたちに拘束のようなことをしてみんなも黙っていないんじゃないだろうか。
「アンタの名前は皆もう知ってるって、浬委姫と知り合いなの?どうなのってこと」
「可哀そうに浬委姫、涙いっぱい溜めて出て行ったよ―!」
「結局、無理してんだよ。どこかで泣いてるぞ!?誰か追いかけなくていいのかっ」
「でも浬委さん――みんなに紐を……名前を黒板に書いて何か……」
「あんなのどうってことねぇって!おれらには浬委ちゃんの遊びって感覚。時々あるしな荒れること。つか、玉井大丈夫か?」
「え?」
「あ、玉ちゃんめっちゃ蒼白だ。保健室行く?」
瀬川くんがオレを背中から支えてくれた。
「いや、マダだろ?浬委ちゃんとの関係を聞いてない。なんか二人、つうか浬委ちゃんの方が必死だったけど」
話した方が良いのだろうか?浬委さんと婚約……そんなのふざけてるって言われるかもしれない。じゃあ、付き合っているという事を?
「ダンマリは隠し立てか?」
低い声が誰かから漏れて、ビクンと肩が震える。
オレは……。
「コホン…騒がないように。玉井君は浬委様の――侍従でございます!!」
眼鏡の縁を指で少し持ち上げて表情を変えずに皆の前で言い放ったのは松井君だった。
一瞬、躊躇したけど、松井君――誤魔化してくれたのかな。
そんな発言でクラス内は収まることもなく大ブーイングが起こる前にオレは教室を出て浬委さんを追った。
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