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44 浬委さんと校内デート

涙で潤んでいた真っ赤な瞳をゴシゴシと制服の袖で拭って、今度は僕に天使のようなほんわかな笑顔を向けた。 キュンと心が弾んだところに「尚史くんと一緒に校内デートできますね」なんて花を咲かせたように言葉を紡ぐものだから完全に心を射抜かれてしまった。 もう、浬委さんには敵わないな。 「は、はい…」 浬委さんに「手を繋ごうよ、尚史くん」と掌を差し出されたので、そっと掌に自分の手をのせた。すると指の間までぎゅっと握られていわゆる恋人繋ぎをする。 再びニッコリと笑顔を向けられて僕も笑みを返すと繋がられてる腕を振られながら廊下を歩いた。 僕たち二人だけ、誰もいない廊下や校内の施設を回りながら浬委さんに個々に説明もされて、気に入った場所ではスマホのカメラで二人で自撮りをしたり、中庭にある浬委さんが曰く木漏れ日に隠れて妖精さんが宿ると云う大きな樹木に案内されたり、開かずの間のミステリーな扉を見せられて震えあがったり、僕の知らない学園の至る所を浬委さんは連れて行ってくれた。 学校がこんなに魅力的な場所だなんて今まで思ったことが無かった。きっと浬委さんと同じ時刻(とき)を一緒に過ごせることに幸福を感じているんだ。 校舎を出て白い樹木の並木道を通ると、可愛らしい薄い青色の教会が見えた。 教会を背景に素敵なロケーションとはしゃぐ浬委さんは自撮りで二人の写真を撮った。 僕の方のスマホにも写そうとすると浬委さんは僕の方に顔を向けてチュって頬に唇を押し付けていた……ついそのまま写してしまった。あとで僕のに送ってね、と浬委さんは可愛い笑顔だったので今すぐに送った。待ち受けにします!と更にはしゃぐ。 今の浬委さんは全く女の子だ……浬委さんは女の子のような部分と、芯から男の子の部分を併せ持っている人なんだなと思う。 守ってあげたいと思ったら支えられたり、不安にしていたら尽くされる……不思議な人――でもそれが浬委さんの魅力で最初に僕が好きになった浬委さんよりもっと好きになってる。 「教会に入ろうよ、尚史くん」 僕の名前を呼ぶときは、一つの発音にも籠められた大切で愛おしそうな音が響かれる。 ありがとう、浬委さん。 「すきです……」 僕を好きになってくれて……。 「浬委さん……僕はあなたが好きです……!」 教会の扉で待つ浬委さんに、心に響くように大きな声で伝えた。 はにかむ浬委さんだけど、天使だった笑顔は……大人っぽい顔に代わる。 「待って、今ソレを貰うのはもったいないよ……教会の中で誓いたい。おいでよ、尚史くん」 浬委さんに片手を差し出されてその意味に気がつくと、僕の告白は空気というものが読めてなかったのかとちょっと恥ずかしくなった。 浬委さんの掌を握るとグイって力強く引かれて、教会の中に僕たちは入った。

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