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今日限定の散らかり具合

 部屋に入ってすぐ衛はビールの異臭に襲われた。 (なんだ、この臭い……酒盛りでもしてたのか?)  トイレと洗面台を通り抜けた先のリビングに転がっていたのはビールの空き缶の山。衛達が部屋に入った風圧で、次々と空き缶が倒れていった。そして、部屋のカーテンは全て閉まっており、日差しはカーテン越しにうっすらと部屋の中を照らしている。 「あーちょっと散らかってるけど気にしないで。今日限定だから」  髪の毛をボリボリ掻きながら笑って誤魔化す東雲。衛はキッと強く睨みつけて抗議した。 「今日限定じゃないですよ、どうしたらこんな悲惨なことになるんですか……」  ポケットに忍ばせていたハンカチを鼻に当てながら窓側に移動し、勢いよくカーテンを開けた。光が差し込み、積もっていた埃が舞っているのが見える。片手で窓を開けようとしたが、鍵がかかっていて開かなかった。 「もうっ!」と我慢できずに声が出て、鍵を外して窓を全開にする。  カラカラカラ、と空き缶がフローリングの床を転がり、新鮮な空気がよどんでいる部屋の中に流れ込んできた。 「東雲さん、ゴミ袋はどこですか? こんなところに住めません。ゴミ出しのルールを教わるついでに掃除します」  前のめりに東雲へと詰め寄り衛は空き缶を指さした。東雲は少し後ずさり、バツが悪そうな顔をする。 「いや、いいよ。俺のだし……自分でする」 「そういう人ほどやらないんですよ」 「うっ……わかったよ」  東雲は「どこやったけなー」と後頭部を掻きながらキッチンに歩いていった。床に転がっている空き缶を器用に避けている。  ゴソゴソと東雲が何かを漁る音を聞きながら、衛は部屋の中を様子見た。  リビングには小さなテレビ。山積みに置かれた新聞や雑誌、脱ぎ捨てた衣服。障子を開ければそこは和室で布団が敷いてあった。 「いやん、勝手に見ないでよ」  スパンと目の前の障子が閉められる。 「一緒に住むんですし、寝る場所の確認をしたかっただけです。閉める必要はありますか?」 「おパンツ転がってたし、ちょっとは片付けさせて。新見ちゃん的に合格?」 「寝室? と呼んでもいいのか分かりませんが、ビールが転がっていなくて安心しました」 「うっ、なんだろ……褒められてんのか、(けな)されてんのか……」 「別に褒めてはいませんよ、当たり前のことを言っただけです」 「新見ちゃん、これから苦労しそう……」 「ん? 人生は苦労するものでしょう?」 「あ、うんそうだね。そのメンタルなら大丈夫だわ」  衛は東雲からゴミ袋を受け取り、空き缶を放り込んでいった。すぐにゴミ袋はいっぱいになり、ようやく床が見えてくる。 「雑巾、いや先に掃除機をかけましょう」 「はい、先生」 「なんで先生なんですか……」  東雲は衛に敬礼し、壁に立てかけてあったコードレス掃除機を渡した。もちろん、充電はされておらず動かない。衛はため息をつきながら無言で掃除機を返すと「宝の持ち腐れですね」と言った。 「掃除機の充電が終わるまで別のことをしましょう。僕はキッチンの水回りを掃除するので、リビングに落ちているものを捨てるか机の上に置いといて下さい」 「はーい」  衛がキッチンの掃除を終えて再びリビングに戻った時、床に散らばっていた衣服は洗濯機に入れられていたが、山積みになった新聞紙はそのままだった。 「これは捨てないのですか?」 「うん、そのままにしておいて」 「……分かりました」  衛は疑問に思いながら自分のものではないし、口出しするものでもないだろうと掃除機をかけることに集中した。    

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