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交番勤務の職業病

 あれから衛は東雲とルームシェアを始め、今日が初出勤だ。東雲に「気楽にやってこいよ」と背中を押され家を出る。  警察学校を卒業して、最初の勤務は地域課だった。ここから衛の警察官としての第一歩が始まる。衛が勤務することになった中央警察署は、オフィスビルが立ち並ぶ中に存在していた。 「新見だっけ? 北崎だ、よろしく」  北崎は小柄な40歳。もっさりとした天パの髪型に八重歯が印象的だった。 「北崎さん、これからよろしくお願いします」 「うん、よろしく。じゃあ、ここにいても仕方ないしパトロールしに行こうか。コツはまず、怪しいと思ったらジッと見てみ? すぐボロが出るから」  交番を出てパトカーに乗り込む2人。北崎が運転席に座り、衛は助手席に座った。 「例えば、どんな人でしょうか?」 「急に後ろを振り返る人、同じ道を何度も通る人、目線をそらして見ない人。やましいことがあるからこっちを意識してくる。職質すれば一発」  衛は手帳にメモしていく。その様子を見て北崎は気分を良くしたのか、いつもより饒舌(じょうぜつ)に話した。 「あとね、自転車の鍵も要チェックね。盗んだ自転車かもしれないから」 「はい」 「じゃあ今から5キロぐらい運転するけど違反者1人は見つけてね。運転手が怪しい行動したら教えて」  衛は注意深く歩いている人を観察した。信号待ちの途中、北崎に顔が怖いぞ、と言われ慌てて笑顔を作る。 「そうそう、かわいい顔をしてるんだから武器にしないと。こっちも見てるけど、見られていると心づもりしときな」 「すみません」  衛は黒いプリウスがうなぎ屋の前に止まっているのが気になった。ナンバープレートにはデコレーションがされており、ナンバーが少し隠れている。 「ラッキーセブンか……あれはパスな」  その目線に気づいた北崎は顔を曇らせた。 「え? どうしてですか?」 「これもメモしときな、悪趣味なナンバープレートに7が並ぶ数字は100パーあっちの人だ。やーさんじゃないよ、中国マフィアさ。向こうだと縁起がいいんだってさ」 「それって危なくないですか?」 「変に刺激しない方がいいんだよ、大丈夫。裏でちゃんと動いてる。日中でも拳銃ぶっ放すしドーベルマン使ってくるから市民を巻き込んだりしたら大変だろ?」 「そうですけど……」 「納得がいかないのもわかる。けどな、正義だけで平和は作れない」  衛は納得はいかなかった。北崎からの無言の圧力でさえも頷こうとしない。 「今は飲み込めないかもしれないけど、いつか慣れるから」  町内を1周パトロールして交番に戻ったが、衛の心はモヤモヤしたままだった。

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