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警察官の職業病

 初日ということもあり夕方頃、交番での勤務が終了した。日が沈み、最寄り駅から歩いていると後ろからクラクションを鳴らされる。振り返るとワンボックスカーのハイエースだった。 「新見ちゃん、おかえり~乗ってく?」  運転席の窓から身を乗り出し手を振る東雲。帰る場所が同じだから、と新見は助手席に乗り込んだ。 (1人なのに10人乗りハイエース。東雲さんって消防車みたいに大きい車が好きなのかな?)  衛はシートベルトを止めながら考えていれば、東雲が「どうしたの?」と聞いてきた。 「ハイエースって盗難されやすいんですよ。大きくて性能もいいから海外にも人気だし転売されやすい」  さすがに本当のことは聞けなくて、交番勤務中に知った情報をそのまま話す。 「大丈夫、大丈夫。ちゃんと盗難保険入ってるし」 「それって盗られる前提じゃないですか」 「まあね、いつかやられるだろうし。何ごともプロには勝てないよ」 「まぁ、そうですけど」  新見は窓の外を見る。住宅街ということもあり、数カ所ある街灯の下を数人が歩いていた。 「新見ちゃん、何かあった?」  東雲がわざと声を明るくして聞いてきた。衛は窓の外を見たまま、ぽつりと呟く。 「いえ、理不尽に出くわしただけです」 「そう、あまり深く考えちゃダメだよ。世の中は理不尽でいっぱいだ」  東雲は少しはにかんで言った。衛は正論と分かりつつも気持ちに整理がつかない。声を荒げて返事をしてしまう。 「分かってます、北崎さんにも言われました」 (大人げないな)  上手く返事ができなかった衛に対し、東雲は話題を変えるように話を繋げた。 「北崎さんは新見ちゃんの上司?」 「はい、40代の小柄な人です」 「怖い人?」 「いいえ、近所のおじさんに似ていました」 「そっか~優しい人でよかったね」  そろそろマンションに着いてもおかしくない時間だったが、東雲が遠回りをしているのかなかなか着かない。  その後も、衛と東雲は雑談を繰り返していった。マンションへ着かないことに衛は気づいていたが、東雲と話していく内にモヤモヤが無くなっていったので何も言わなかった。

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