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第4話
3階建ての独身寮、2階1番奥の部屋。
「先輩、僕です! すみません、急ぎなんで開けますよ!?」
何度かノックをし、反応がなかったので部屋のドアを押してみる。
すると氷室先輩は奥にあるベッドに、仰向けに横になっていた。
「あの、大丈夫ですか? 体調が悪いとか……」
「くすのき~……」
力なく呼ばれて、僕はベッドに近づいていく。
甘ったるい匂いがして、それから先輩が胸の上にフルーツグミの袋を乗せているのに気づいた。
この人は服のまま、ベッドでそんなものを食べているらしい。
なんとも言えない気持ちのまま、僕はベッドのそばにたどり着く。
「先輩のチームでトラブルがあったみたいで、呼んでくるよう言われました」
横になったままの先輩に、とりあえず知る限りの状況を説明した。
「……というわけで、起きられるようなら行って助けてあげてください」
「ん~……」
やっぱり先輩は気だるそうだ。
首に縄をつけてでも連れて来いとは言われたけれど、どうすべきなんだろうか。
僕は戸惑いながらも、もう一歩先輩に近づいた。
先輩は何も言わずに、もしゃもしゃと口を動かしている。
「あの……」
止まってしまった時間に焦りを覚え始めていた時、ようやく先輩が口を開いた。
「悪い、今日はもうエネルギー切れで」
「エネルギー?」
だからベッドでお菓子を食べているんだろうか。
「俺、三大欲求が満たされないと働けないの」
「三大欲求って……」
(食欲に睡眠欲、それから性欲だったっけ?)
お腹が空いてて、眠いのは分かる。
けど性欲は関係ないんじゃないかと僕は思った。
ところが先輩は、緩慢な動作でベルトを緩め始める。
(……えっ!?)
緩めのジーンズがずらされ、先輩のそれが勃ち上がった状態でさらけ出された。
僕は慌てて、後ろのドアを振り返る。
ドアはきちんと閉まっていた。
フルーツグミの袋がベッドから滑り落ち、足下に鮮やかな赤や黄色が散らばった。
甘い香りが鼻を突く。
僕はどうしていいか分からないまま、その光景を見守った。
「楠木」
「はい」
「相手して、5分だけ」
「……は?」
頭では理解できない。
けれど直感では理解したのか、僕の心臓はすでに早鐘を打っていた。
「ま、待ってください、えーと……」
5分だけと言われても、その5分はどんな5分なんだろうか。
「お前が尻貸してくれるなら、なんとか元気出して働く」
「尻ってなんですか」
その明確すぎる単語に怖じ気づいた。
まだ何もされていないのに、その辺りがじんわりと痛くなる。
「僕のお尻は、けっしてそういうことのためにあるわけじゃ……」
「だろうけど、少しだけ。いいだろ?」
濡れた瞳で見上げられ、本当にわけが分からなくなった。
(神さま、いったい僕はどうしたら!?)
顔が熱くて、先輩の方をまともに見られない。
けど、ああ言われて会社を出てきたんだ。このまま逃げ帰るわけにもいかなくて。
いや、そんなことより。
先輩の視線に絡め取られ、逃げようにも体が動かなかった。
何も言えないまま、呼吸だけが荒くなる。
「楠木……」
かすれた声に促され……。
(こんなのっ、逆らえるわけが……)
僕は自ら、着ていた服に手をかけた。
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