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第5話
「102行目……あった! これかぁ、うう、すごい凡ミス……」
オフィスに戻ってファイルを開き、思わずひとり言が出た。
時刻は23時すぎ。
フロアの灯りは落とされ、非常灯だけが辺りを青白く照らしていた。
(こんなしょうもないミスのために、僕は……)
違和感がありありと残るお尻で座り直し、深いため息をつく。
氷室先輩のことはけっして嫌いじゃないけれど、行為の後はどうしても空しい気持ちになってしまう。
それはそうだ。たかが仕事のために、愛のないセックスをしているんだから……。
該当箇所を修正し、もう一度テスト。
うん、何も問題ない。これで明日、上司に報告できる。
僕の担当箇所以外は順調に開発が進んでいるみたいだし、僕のせいで納期を遅らせるなんてことにはならずに済みそうだ。
よかった。
いや、よくなんかない。
氷室先輩に助けてもらわなければ、僕は周りに迷惑をかけていたわけで。
プログラミングのスキルが足りないことは、間違いなかった。
しかも僕はスキルアップのための努力もせずに、先輩を頼ることでやり過ごしている。
それも、愛のない行為と引き替えに。
――あんま無理すんなよな。
さっき聞いた先輩の言葉がよみがえる。
そう言われても、僕はどうすればいいんだろうか?
暗い天井を仰ぎ、ふと、書類立てに立てていたプログラミングの教本を手に取った。
それは以前、氷室先輩から勧められて買ったものだが、忙しい日々の中、真新しいまま埃をかぶっていた。
(このままじゃだめだ)
そして僕は心に決める。
あの人を頼るのはやめよう。
きちんとスキルを磨いて、先輩と、対等な関係が築けるように。
「よし!」
決めたらスッキリした。
けれど、心の奥の孤独感を拭えないのはなんでだろう。
仕事への不安? いや、それだけじゃなくて……。
氷室先輩の体温の残る、腰の周りを意識する。
あんなふうに抱かれるのが嫌なのに、僕はやっぱり、あの人との触れ合いを求めているのかもしれない。
「好き、なのかな?」
誰もいないオフィスでつぶやく。
好きなら尚更、今の関係はいけないと思った。
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