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第7話
氷室先輩が僕の手首をつかんで向かった先は、2階にある彼の部屋だった。
「先輩! いい加減、放してください」
中に入ったところで、つかまれていた手がようやく離れる。
先輩が後ろ手に部屋の鍵を閉めた。
(ここで2人きりになるのはマズいよ)
せっかく先輩を頼らず1週間頑張ったのに、ここで押し倒されたらなし崩し的に前の関係に戻ってしまう気がする。
「楠木」
「は、はい」
「何逃げてんだよ」
そう言われても、腰が勝手に後ろへ逃げてしまう。
履いているスリッパが、落ちていたスナック菓子の袋を踏んで滑った。
「わっ!?」
「おい!」
先輩の長い腕が伸びてきて、バランスを崩した僕の腰を支える。
その勢いで僕らの体は、奥にあるベッドの上に転がった。
(ちょ、これはますますマズいって……!)
先輩の長い前髪が、はらりと視界に落ちてくる。
真上から見つめてくるその瞳には、同じく目を見開いた僕が映っていた。
「氷室先輩……」
ぬくもりと近すぎる距離に、感情が揺さぶられる。
「お前さ、最近俺のこと避けてるだろ?」
見つめながらため息交じりに言われ、泣きだしたい気分になってしまった。
「違うんです、そうじゃなくて……仕事で先輩を頼って、体だけいいようにされるのは嫌なんです。早く一人前になって先輩に認められたい。少しでも対等な関係に近づきたい」
本音がつらつらと口からこぼれ出る。
「お前まだ入社2カ月だろ」
先輩が困ったように顔を歪めた。
「それで俺に自分を認めさせようなんて、生意気」
先輩の手がシャツのすそから入ってきて、生意気な後輩を懲らしめるように胸の先をつまんだ。
「ゃあっ、でも」
「でも、なんだよ?」
先輩が乱暴な手つきで、僕の服を脱がせ始める。
「だからっ、愛のないセックスは嫌なんです」
「お前は、俺に対する愛はないわけ?」
「……えっ?」
「愛もなく受け入れてんの? それ、傷つく」
シャツの中に入り込んだ手が肩甲骨の上を滑り、次の瞬間には上半身裸にされていた。
それに驚くうちに、下も引きずり下ろされる。
「先輩、だから、だめですって……」
どうしてか、抵抗の声が甘えた響きを帯びてしまう。
「お前に愛がなくても、俺はこの尻がめちゃくちゃ好きだ」
「やっぱり体目当てじゃないですか! そういうの嫌だって――……」
僕を組み敷いたまま、先輩が片手で自らの欲望を取り出した。
先輩のそれは力の違いを誇示するように、大きく持ち上がって僕を威嚇している。
「でも愛してる」
「そんな愛、嫌、だ……ああっ」
ゾクゾクするものが背筋を駆けあがった、次の瞬間。
両ひざを持ち上げられ、露わになったそこに、先輩の雄々しいそれが突き立てられた。
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