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素敵なひと

三歳にはあまり恋愛経験がない。 小中高と ごく平凡な生活を送る中で、 自分が男性しか好きになれない と気がついた。 しかし三歳は、元来 大人しいタイプだった。 いつも三歳は恋愛に 夢中になれる人たちを 羨ましいと外から眺める ことしか出来なかった。 わざわざ同性同士という 危険な恋愛を自分から 進んで求めるほどの度胸もなく、 初恋は大学時代。 好きになった相手には恋人がいた。 諦めなくてはならないと 思い詰めるあまりに、 酷い生活を送っていた。 紆余曲折の末、 初恋の相手には 告白してフラれている。 それからはずっと いいな、と思う人物も現れず、 寂しい生活を送っていた。 しかし今、 とっても素敵なひとと出会えた。 好きになってもいい相手、 それだけで三歳は とてつもない安心感を抱いていた。 「三歳くんは学生さん? それとももう働いてるのかな?」 その時、 津本が美しい瞳で 三歳を見つめながら 優しい声で尋ねた。 「あ、就職、してます! 大学卒業して、今年から新卒で」 「へぇ、それじゃ研修とか大変でしょ?」 「あ、はい、っていっても 大学時代からのバイト先の スポーツジムで、 良くしてもらってます。」 「仕事、好きなんだね。 いい顔してる。」 いい顔、と津本に先程以上に まっすぐな瞳で見つめられ、 三歳の体温が上昇する。 慌てて三歳は 赤くなってないだろうかと 心配しながらうつむいた。 三歳が返事を出来ないでいると 話を聞いていた玲の恋人が言う。 「仕事中の沢田くんは 見てて心配になるくらい 一生懸命走りまわってるな。」 「あれ、登録してるの?」 「沢田くんとこのジムいいぞ! 駅近いし、スタッフさん 穏やかで通いたくなるし、 プログラムも充実してんだよ。」 「最近、暗闇ヨガとかも やってるんだよね!」 「暗闇?なにそれ?」 気が合うんだろう、 恋人と津本に玲も混じり 楽しそうに談笑している。 三歳は話し半分で 会話に混じるが、 津本が三歳の方を 振り返る度にドキドキして 集中できないでいた。 あったばかりだと言うのに、 ここまで惹かれてしまうのは 何故だろうか。 三歳は数時間話をして 津本のことをもっとたくさん 知りたいと思った。 三歳の元に勤め先のジムに 入会したいから色々教えてくれと 津本から連絡があったのは、 それから数日後のことだった。

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