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格好いいひと

「津本さん!お仕事帰りですか?」 「こんばんは、三歳くん。」 時刻は午後8時過ぎ、 駅近くのスポーツジムのフロントで 三歳と津本は出会した。 にっこりと微笑み、 遅くまで開いてるから助かるよ なんて言いながら三歳の頭を撫でる津本。 津本が三歳の勤める スポーツジムに入会してから、 いくつか分かったことがある。 それは津本が真面目な 男であるということ。 津本はこのジムに 3日とあけず通っていた。 それから、津本は スキンシップ多め だということ。 ことある毎に津本は 三歳の頭を撫でたり、 背をたたいたり、 肩に手を置いたり、 とにかくたくさん触れてくる。 深い意味があるのかないのか、 恋愛経験の浅い三歳には はかりかねるが、 津本に触れられる度、 三歳の心臓が高鳴るのは確かだ。 「そうだ、三歳くん、 知り合いでここに入会したいって 言ってる子がいるんたけど、 今度連れてきてもいいかな?」 三歳はドキリとした。 「は、はい、いつも色んなひと 紹介して頂いて助かってます!」 もうひとつ、 津本について分かったこと、 それは津本が非常に社交的で 知り合いも多く、 その誰もが津本を 好いているということ。 事実、津本は今回のように、 新規顧客をたくさん紹介してくれた。 その多くは職場の知り合いだそうだ。 仕事はソフトウェア開発事業で、 なんでも大手の重役らしく、 連れてくる知人も 品のある大人ばかりだった。 男性ばかりで、 津本に好意的なことは間違いないが、 三歳がみたところ同性に対して 恋愛感情を抱くような 雰囲気は感じられなかった。 聞いたところ、 津本にはいま恋人はいないらしい。 しかし、 いつそのような人物が表れるのか 三歳は気が気ではなかった。 津本が知り合いを紹介したいと言う度、 三歳の心臓は嫌な音をたてる。 「津本さんのこと、 好きってことなのかな。」 それじゃまた、と格好よく告げて 更衣室へ向かう津本の背中を見つめながら、 誰にも聞こえない程に小さな声で、 三歳はそっと呟いた。 津本について知れば知るほど 好感度は増すばかりだ。 もっとたくさん会いたい、 もっと触れて欲しい、 ふたりで出掛けてみたい、 こっちを見てて欲しい。 そんな気持ちが どんどん募っていく。 確信してる訳じゃない、 でもこの気持ちは、きっと恋だ。 覚えのあるその感覚を自覚しはじめて、 三歳は軽くめまいがした。 恋なんて、いい思い出がまるでない。 「でも今回は、」 希望がある。 何しろ津本は、好きになってもいい相手。 津本はゲイで、恋人もいない。 そうなれば、やることはひとつ。 ちゃんと素敵にアプローチしよう。 そう心に決めて、 三歳はもう一度津本を見る。 ジムのスタッフと 挨拶をかわす津本の横顔は、 やはり、とても格好よかった。

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