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そうじゃないひと

初めて見る津本に、 三歳はすっかり煽られていた。 「…っこういうこと、 よくあるんですか?」 急に思い詰めたように そう問う三歳を津本は 濡れた瞳で見上げる。 「んー?酔って帰れなくなること? そだねー、ここ、よく泊まるんだ。」 三歳は少なからずショックを受けた。 津本は三歳を求めている訳ではない、 酔って気分が高まって、 たまたま近くに三歳が居たから、 ホテルに連れ込んだ、ということだろうか。 『…まぁ、俺が勝手に ついてきたんだけど。』 しかし三歳は、ここまで来て 引き下がることなどしたくなかった。 たまたま居た相手だからだとしても、 既成事実をつくれば、こっちのもの…。 三歳は覚悟を決めた。 うつ伏せになっている 津本の右肩を押し、 仰向けにさせる。 その上に覆い被さるようにして 三歳は津本の両肩を押さえた。 すると津本は 驚いたように少し目を見開いた。 「どうして、そんなに 驚いた顔をするんですか?」 三歳は肩を押さえていた右手を 津本の身体をなぞるように、 肩から胸、腹、腰骨へと動かした。 バスローブの腰元をはだけさせると、 下着をはいていなかった 津本の素肌が空気にさらされる。 津本は慌てて上半身を起こした。 「こういうこと、 したかったんじゃなかった? それとも俺相手には、 そんな気持ちになれない? ほんとにただ眠るだけのつもりで、 ここに来たんですか?」 そこで津本の目を見つめると、 戸惑ったように三歳を見つめ返した。 三歳は泣きそうになりながら 津本に懇願した。 「いつもみたいに、触ってください。」 しかし津本は依然戸惑った表情のまま、 三歳を剥がすように手を伸ばした。 その手をかわして、 三歳は津本の陰部へと顔を寄せる。 「っちょ、三歳くん?」 津本は慌てて三歳の頭を押さえるが、 三歳はそれさえも振り切って 津本に舌を這わせる。 「…っ」 未だに戸惑いを全面に出しつつ、 しかし津本は快楽の滲む声をあげた。 三歳はもう一度津本の目をみて 咥えた口はそのままに怪しく微笑んだ。 「…っそうか、忘れてたよ。 三歳くんはそうなんだね。」 津本の呟きに真意を掴みかねた。 津本はただ、申し訳なさそうな顔で 三歳を見つめていた。 「ごめんね」 そう言うと津本は三歳を抱き上げた。 そして、 ゆっくりと、 はっきりと、 津本は三歳に告げる。 「僕は、ゲイじゃないんだ。」

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