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無垢な子
津本京は生まれて初めて
抱く感情に戸惑っていた。
京が三歳と出会ってからというもの、
京は常々、三歳のことが頭に浮かんでいた。
京はこれまで、
対人関係に悩むことなんて
ほとんど無かった。
気が付けば周りには
沢山ひとがいて、
仕事でもプライベートでも充実していた。
彼女がいない期間も無かったほどだ。
ここ数年はひとりで過ごす時間を
楽しみたいと感じ、
言い寄られてもやんわりと断っていたため
彼女が出来ることはなかった。
その分、色んな人種と交流を持って
人間性を深めようと考えていた。
ゲイバーに行ったのも、
そのためのひとつだった。
セクシャルマイノリティに偏見などない。
障壁がありながらも、
ひとを愛すその姿は、
むしろ魅力的に感じていたくらいだ。
しかし、
いざ自分がそうなのかもしれない
となると、京にも、
すぐには受け入れられなかった。
スポーツなんて
ろくにしたことも無かったが、
新しく登録したジムには
真面目に通っていたし、
三歳に出会す度に
何かと声をかけては
懸命に働く様子に感心していた。
いま思えば、半分くらいは
三歳に会いたくて通っていた様なものだ。
飲みに行ったあの日もそうだった。
真っ直ぐで懸命で
可愛らしい三歳と話しているのが
ひどく楽しくて、
普段なら酒を飲むと
歩くのも億劫になるほどで
適当な宿で眠って
夜を明かすというのに、
あの日はどうしても、
三歳を返したくないと思った。
ただ一緒にいたいと、
朝まで飲み明かしたいと思った。
それがどんな感情かなんて、
考えもしなかった。
可愛い弟のように
思っていた、と思う。
けれど、あの日、
京の陰部に舌を這わせ、
妖艶に微笑んでいた三歳を、
京は幾度となく思い返し、
その度に下腹部が疼くのを
止められなかった。
ホテルで泣きじゃくる三歳を
宥めたあの日から数週間、
京はさすがに自覚した。
生まれて初めて、男を好きになった。
出来ることならこれからは、
もっと仲良くしたい。
色んな顔をみたい。
けれど、三歳はどう思うだろうか。
今さら言ったところで遅いかもしれない。
しかも、三歳は7つも年下で、
無垢で真っ直ぐで可愛い青年だ。
三十路のおじさんが
いたぶっていいような子ではないだろう。
そうは思っても、京にも
三歳に会いたい気持ちは止められなかった。
長く話をしたくて、
スポーツジムに入会したいと言っていた
部下の女の子を口実に、
三歳に入会の手続きをしてもらった。
三歳に会うべきか、会わざるべきか、
悩みに悩んで数週間あいてしまったが、
やはり、会いたさが勝った。
久々に長く顔を見られると
高まっていた京だったが、
対する三歳は浮かない様子だった。
これまで通り、と言ったことを
後悔しているんだろうか。
終わった男のことなど、
早く忘れて次にいきたいと
思い直したのだろうか。
珍しく元気のない三歳に
どう声をかけていいのか、
京には分からなかった。
「こんなの、初めてだ。」
三歳を手に入れるためには
どうすればいいのか、
途方に暮れて京はベッドに突っ伏した。
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