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美しい子

「京さん!お話いいですか?」 京がひとり、会社の執務室で 書類に目を通していると、 部下の女の子、佐波が声をかけてきた。 どうぞ、と部屋に通すと、 佐波は微笑みを浮かべ 京のそばへと歩み寄った。 「あの、今晩、お食事でもいきませんか?」 言葉を聞いて、京は断り文句を考える。 今日は三歳に会いに行こうと思っていた。 「すまない、今日はジムに行きたいんだ。」 「そうなんですか!こないだ、 紹介していただいた所ですよね! なら、私もご一緒したいです!」 京はひとりで行きたいと思ったが、 どう断ればいいのか、考えあぐねた。 「んー、そうだね。」 「それでは、お仕事終わりに、 一緒にいきましょう!」 半ば強引に約束を取り付けられ、 断れずに就業時間を迎えた。 結局、部下と連れ立って ジムまで来てしまい、 三歳に会ったら どんな顔をしようかと 考えていた矢先、 ジムのフロントには三歳が立っていた。 「やぁ、三歳くん。」 声を掛けると三歳は 取り繕ったような笑顔を見せた。 「こんばんは、お二人ご一緒なんですね。」 三歳が佐波に目をやった。 「あぁ、彼女もここが気に入ったみたいで」 悲しんでいるような、 怒っているような、 感情の読めない三歳の表情を 津本はじっと見つめた。 「…そ、れは良かったです。 いい汗流していって下さい。」 三歳に他人行儀な笑顔で促され、 それ以上なにも話せなくなった京は ロッカーへ向かった。 京が女を連れてジムに来たことに、 三歳は悲しんでいるのか、 怒っているのか、 まだ好きでいてくれているのか、 京には考えても分からなかった。 その日は閉店時間までジムに残り 建物の外で三歳が出てくるのを待った。 ジムを出る前に待っていると声をかけたが、 三歳は変わらず浮かない顔をしていた。 佐波とはジムを出たところで別れた。 もう一度、食事に誘われたが断った。 ひとりで三歳の退勤を待っていると、 15分程して裏口から三歳が現れた。 「三歳くん」 呼び掛けると三歳は京に気づいた。 京の後方を見渡し、物憂げな顔をする。 「佐波はいないよ」 京が告げると、 三歳ははっとした顔をした後、うつむいた。 「素敵な方、ですよね。 もうお付き合いされてるんですか?」 三歳は、佐波のことを、 気にかけているんだろうか。 「付き合ってない、佐波が気になる?」 佐波に、嫉妬してくれているんだろうか。 「俺が佐波といると、辛い?」 もし、もしそうなら、 まだ京を好きでいるなら、 付き合いたい、 そう言うとした京を三歳が遮る。 「か、からかってるんですか! 俺があなたを好きだから? それなのにまだ、 これまで通りでいたいとか言ったから? 分からせようって?」 京は一瞬、三歳が 何を言っているのか分からなかった。 「そこまでしなくても、 あなたが女性を愛すひとだ ってことは分かってます! もう、変なことしないから、 許して、」 「違う、そうじゃない、俺は」 三歳は泣いていた、 静かに涙を流す三歳を 京は美しいと思った。 そんな場合じゃないと、 頭では分かっていても、 三歳に見惚れて言葉を紡げなくなった。 黙る京を振り切って、 三歳は駆け出した。 「三歳くん、待って!」 慌てて追いかけるが、 京は三歳に追い付かなかった。 スポーツもろくにしてこなかった 三十路の足では、20代にはおよばない。 はぁはぁと息をきらせた京は、 走り去る三歳の背中を見ながら思い返した。 三歳を泣かせてしまった。 また、泣かせてしまった。 泣かせたまま返してしまった。 「俺は、君の笑顔が見たいのにな。」 やはり、7つも離れていると 色々と不便がある。 側溝の上でうずくまり息を整えながら、 京はやるせない気持ちになった。

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