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好きな子

三歳をまた泣かせてしまった日から数日、 京は未だに三歳に弁明出来ずにいた。 三歳になんと言って謝ろうか、 どうやって誘い出そうか、 どう告白すればいいのか、 それを考えるばかりで 動き出せないでいる。 三歳のことも、 そして佐波のことも。 「京さん! 今日こそは、お食事にいきましょう。」 佐波が三歳のジムに 登録してからというもの、 京は毎日のように 佐波に食事に誘われていた。 どうにか断り続けていたが どうやら限界らしい。 こうして、佐波とふたり、 街中にある、照明の薄暗い イタリアンの店で向かい合った。 ややこしい名前をしたチーズや 聞いたこともない香草を使った パスタを食べ終え、 エスプレッソを口に運んでいた頃、 佐波がものものしく告げた。 「京さん、 もうお分かりだと思いますけど、 私はあなたに好意があります。 お付き合いして頂きたいんです。 結婚を前提に。」 単刀直入に要件を告げた佐波は さっぱりとしていて好感を持てた。 「あなたが通いつめているジムの スタッフの沢田くんに惚れている ということには気付いています。 それでいて、ためらってることも、 私なら周囲の目は気にしなくていい、 仕事への理解も出来ます。」 京は若干の驚きを覚えた。 しかし佐波は仕事のできる女性で、 同僚や部下からの信頼も厚い、 身なりに気を使う余裕も持っている。 そう思えばこの発言も納得だった。 どう返事をしたものかと 考えあぐねていると、 佐波が続けた。 「ここまで待ったので、 今さら焦りません。 返事は待ちますので、 前向きに検討してください。」 そうして食事を終えて、 京は無性に三歳に会いたくなった。 時計を見ると20時を過ぎたところだった。 「まだ、開いてる。」 京はスポーツジムに向かった。 ところが、ジムに来ても 三歳には会えなかった。 この日、三歳は午前シフトだったのだ。 「そりゃそうだよな。」 京はここに来ればいつでも 三歳に会える気がしていた。 そんな訳もないのに、だ。 「そう言えば俺、 仕事中の三歳くんしか知らないな。」 普段はどう過ごしているのか、 何が好きで何が嫌いで、 これまでどんな風に生きてきたのか、 何も知らない。 知りたい。 気になる。 その時京は 同姓だからどうの、年の差がどうのと 悩んでいた自分が馬鹿らしくなった。 京は携帯を取り出して電話をかけた。 まずは佐波に、 やはり付き合えないと断りを入れた。 佐波にはさすが京さん決断が早いですね と嫌みを言われたが、 はっきりと三歳が好きだからだと伝えれば 最後には応援していると言ってくれた。 性別も、年齢も関係ない。 周囲がどう思おうと、 これまでの自分がどうだろうと、 三歳が好きなのだ。 今すぐ、会いたい。 京は三歳の電話番号を呼び出した。

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