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優艶な子

「はーい、もしもし、 ミツのスマホですー!」 電話をかけたスマホから聞こえる声が、 予想と違っていて、京は驚いた。 ミツとは誰で、この男は何者なのか、 京は嫌な予感を感じた。 「ミツって、この番号 沢田三歳の携帯ですよね?」 「あー、っと、そうです。 ミトセ、今電話に出れなくて、 要件が有れば伝えておきますよ。」 京は少しの焦りと、 言い様のない怒りを感じた。 通話の相手は男、 電話に出れない状況、 三歳への着信をとれるほどの間柄、 考えてたどり着いた答えはひとつだった。 もう、新しい恋人が出来たのか。 「ちょっと待て、お前は誰だ? 今どこで、何をしてる?」 隠す余地もない怒りが 相手にも伝わったのだろう、 相手は慌てたように返事をした。 「あ!もしかして彼氏さん? 俺は恭也(きょうや)って言います。 今バーにいて、みっちゃんとは ついさっき知り合ったんだけど、 みっちゃん、飲みすぎて潰れてるんです。」 迎えにきてあげて、 という恭也の言葉を聞き、 京は慌てて教えられたバーへ向かった。 「三歳くん!」 京はあわただしくバーの扉を開いて、 すぐに見つけた三歳に呼び掛けた。 すると三歳はのそりと顔をあげて 京を振り返った。 「あれー?つもとさんー?」 酒に酔い、微睡んだ三歳は優艶で、 あの日から、幾度も京を昂らせた 三歳の姿を彷彿とさせた。 「三歳くん、平気?」 京が三歳の肩を支えると、 三歳は京にもたれかかり、 嬉しそうな笑顔で京を昂らせた見上げた。 「お酒、飲んでたの?」 京がゆっくりと低い声で告げると、 三歳は京の胸元に顔を寄せて答えた。 「つもとさんが、 あいにきてくれないなら、 もう、あきらめなきゃって」 「それで新しいひとを探しに来たの?」 三歳が他人の手に渡っていた かもしれないと考え、津本は 思わず強い口調で咎めるように言った。 「ん、んー、と、きょうくんに、 おはなし、きいてもらった。」 そこで、ハッと気付き、京は 電話口に恭也と名乗ったであろう、 三歳の向かい側に立っている男を見た。 「あー、振られたとか、 俺には魅力がないとか、 そんな話してただけだよ?」 恭也は苦笑を浮かべ、 顔の前で両手をふった。 「すまなかった」 京が恭也にそう告げると、 恭也は俺こそ色々話したし、 とまるで気にしていない様子だった。 それなら良かった、 と京はまた三歳に声をかけた。 「三歳くん、帰ろう。 話したいことがあるんだ。」 その言葉に三歳は素直に従った。 京は財布からいくらか取り出し、 恭也に渡すと、礼を告げてバーを後にした。

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