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強引なひと

三歳は津本に連れられて、 いつかのあのホテルまで来ていた。 ぼんやりする頭で、 これまでの出来事を思い返した。 津本への思いを忘れようと お洒落をしてバーに行った。 諦めて帰ろうとした時に きょうくんと出会って、 たくさん話をした。 津本に振られたこと、 津本には新しい恋人が出来そうなこと、 それでもまだ津本を好きなこと、 そしたらきょうくんも、 彼氏と上手くいってないっていって、 きょうくんの恋人の話をきいて、 気がついたら、津本さんがいた。 あれ?津本さんがいた? 三歳はそこでハッとした。 三歳の手を力強く引いて ホテルの部屋へと向かう津本を 困惑したままに見つめた。 「つ、津本さん!?」 切羽つまった声に、津本は振り返った。 「なに? 悪いけど、 今日は返せないから。 こないだみたいに 逃げようと思わないでね。」 こないだ、と言われ、 三歳はまわらない頭で考えた。 逃げた、こないだ、 そうだ、こないだジムの前で 佐波の話になり、三歳は逃げ帰った。 今日は返せない、と言うことは、 津本は別れをいいに来たのだろう。 三歳はようやく理解してひどく落ち込んだ。 いや、でも、はっきりと 別れを告げてもらった方が 諦めがつくかも知れない。 いつになく強引な津本に、 三歳は抗えないと悟った。 それから三歳は大人しく 津本に引かれて部屋までついていった。 部屋につくと、 津本は三歳をベッドに腰かけさせた。 ベッドの淵に腰かける三歳の 正面に向かい合い、 幼稚園児にそうするように、 津本は床に膝をついて三歳と目を合わせた。 「そんなにお洒落して、 僕のことはもう忘れたかった?」 三歳は悪い夢でも 見ているような気分だった。 何故そんなことを聞くのだろうか。 「早く、忘れないと、 津本さんに迷惑だと、」 酔いの冷めない頭で、 三歳はどうにか言葉をつないだ。 「僕は忘れて欲しくないよ。」 何故、何故だと三歳は戸惑った。 「俺なんかに思われてても どうしようもない」 迷惑でしょう?そう続けようとした。 「まだ思ってくれてるなら嬉しいよ。」 どうして、何で、津本は 期待させるようなことを言うのか。 「だって、何で? 津本さんは佐波さんと 付き合うんですよね?」 困惑した三歳は 知っているはずの答えを 聞いてしまった。 「告白されたよ」 ほら、と三歳の心に絶望がさした。 「だけど、断った。」 「どうして?」 「君が好きだから。」 三歳は困惑に困惑を重ねた。 津本は、何を言っているんだ、と。 「好きって、」 「僕はゲイじゃないし、 三歳くんより7つも年上だし、 何度も君を泣かせた。 それでも、頭から離れないんだよ、 前にふたりでここに来た、あの後から。 三歳くんのことが、ずっと。」 三歳は戸惑いつつも津本の目を見つめた。 その瞳は真剣そのもので、 まるで本当に、 三歳のことが好きなようだった。 「今さら、と思うかもしれない。 だけどもし、まだ三歳くんが 僕のことを好きでいてくれてるなら、 僕は三歳くんと付き合いたい。」 三歳はこれが現実なのか疑った。 津本が三歳を好きになるはずがないと、 ずっと、今でもそう思っている。 「本当に?」 これは現実かと、何度も確かめた。 「好きだ、三歳くん。」 三歳はこの際、 夢でも何でもいいと、 思ってしまった。 「俺も、好きです。 津本さんが好き。ずっと。」 そういった三歳を津本は強く抱き締めた。

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