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第3話 初めての王都

 王都へ向かう二週間、田舎の町をいくつか経由していったが、大したトラブルもなく済んだのは狼族のダリウスと、虎族のゾード、この二人の護衛のおかげだった。  すでに日が西に傾き、夕陽が王都を照らす時刻。オレンジ色に染まった背の高い城壁に守られた王都の入り口を見上げて、ヤトはポカンと口を大きく開ける。今までの宿場町もコーシュ村に比べたら大きな町であったが、王都はまた規模が全然違った。その迫力に、ただただ魅入る。  乗合馬車が石畳で出来た大きな広場に着くと、御者の犬族の男が降り立った。ようやく、目的地に着いたことで、客たちは続々と降りていく。ヤトも大きなリュックを背負って広場に降り立つ。 「うわぁ……」  ぼうっと周囲を見回し、感動しているヤトだったが、乗合馬車に乗っていた客たちはさっさと馬車から離れ、それぞれの目的の場所へと去っていく。気が付けば馬車の傍にいるは護衛の虎族のゾードとヤトだけになっていた。 「あ、お店の場所ってどこだっけ」  自分が一人取り残されていたことに気付いたヤトは、慌ててリュックを下ろして、エイブから渡されていた地図を探し出す。手書きで書かれた地図は、まさにこの広場の場所を描いている。しかし、広場から放射線状に広がる大きな道はわかっても、それがどの道にあたるのか、さっぱりわからない。  ヤトが一人、地図を広げてああでもない、こうでもないと悩んでいると、乗合馬車の停まっている場所の反対側の通りから、護衛で狼族のダリウスともう一人、少し小柄な女性の狼族が早足で近寄って来た。 「もしかして、ヤトくん?」  ヤトのそばに立った女性は、ヤトよりも頭一つだけ背が高かった。とても優しそうな灰色の毛並の女性が、ニコリと笑って話しかけてくる。 「は、はいっ!」  緊張のあまり声が裏返ったヤトは、地図を片手に、ピキンと音がしそうなくらい真っ直ぐに立った。 「よかった。遅くなってごめんなさいね。ダリウス、呼びに来てくれてありがとう」  女性は、嬉しそうに笑みを浮かべて、ダリウスの頬にキスをする。ダリウスも満更ではない顔に、ヤトは驚いた。二週間、ダリウスがこんな風に顔を緩ませたところなど、見たこともなかったからだ。 「あ、あの」 「ああ、ごめんなさいね。私、エミー。ダリウスと私、今度結婚するの。その代わりにヤトくんに来てもらったのよ」  まさかのエミーの婚約者に守られて来たのか、とヤトは再び驚いた。 「え、ダ、ダリウスさんは知ってたんですか?僕がエミーさんの代わりだって」 「……ああ」  そう返事をするダリウスだったが、エミーに向ける表情とはまったく逆。完全に無表情だ。ヤトは、こっちのほうが見慣れていただけに、ホッとする。 「さて、ヤトくん。もう遅い時間だから、まずは店に顔だけ出して。イズラエル様もお待ちになってるから。ダリウス、後で迎えに来てくれる?」 「ああ」  ダリウスは護衛の仕事の清算が残ってるとかで、そのまま乗合馬車に残り、エミーとヤトは仲良くイズラエルの店へと向かった。

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