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第4話 主様、よろしくお願いします

 放射線状に広がる大通りの一本から脇に入る細い道。そこを少し奥に入ったところに、大きくてがっしりとした木製のドアがあった。そのドアの上に店の看板が掲げられている。その看板には黒々とした狼の横顔だけが刻印されている。いったい何の店なのか、さっぱりわからない。  ヤトは首を傾げながら見上げていると、エミーはドアを開けてさっさと入っていく。 「ただいま戻りました~」  その声に、店の中からは何の反応も返ってこない。エミーはそんなことはお構いなしに、カウンターの奥の小さな出入り口へと入っていく。ヤトはそんな彼女の後についていくのに躊躇し、店の中に留まった。  店の中は雑多な物で溢れていた。高級そうなガラス細工があるかと思えば、なんでこんな物が、と思うほどボロボロの人形、美しい刺繍が施されたタペストリーや、壊れかけの時計のような物まで下がっている。  ヤトは大きなリュックをぶつけないように気を使いながら、店の中をぐるりと見渡す。 ――ここは何屋さんなんだろう?  店の中は、何やら懐かしいような古臭い書物のような匂いに溢れていて、ヤトはワクワクしながらゆっくりと狭い店の中を歩き始めた。 「……どうだ。何か面白い物でもあったか」  急に背後から話しかけられて、ヤトは「ひゃっ!?」と声を上げて飛び上がった。  慌てて振り向くと、そこにはとても背の高い、黒い長い髪を一つに束ね、左目を黒い革製の眼帯をした男が、何やら面白そうな顔で立っている。年の頃は二十代半ばくらいだろうか。一つだけ残っている深い蒼い瞳がキラキラと見つめている。 「す、すみませんっ」 「いや。お前がヤトか」 「はいっ!」  とてとてと男の前に近寄ると、ピシッと背筋を伸ばし、挨拶をする。 「コーシュ村のアイダス家の五男、ヤト・アイダスですっ! よろしくお願いしますっ!うおっ!?」  勢いよく頭を下げたせいで、リュックまで前に飛び出して、危うく倒れそうになる。 「おっと」  それを簡単に支えた男は、ヤトをちゃんと立たせると、同じ視線になるようにしゃがみこんだ。 「俺はイズラエル。ここウーズ商会ライオス支店の支店長だ。よろしくな」  ぐりぐりとヤトの頭を撫でて、優しそうな笑顔を浮かべる。そのあまりにイケメンな笑顔に、ヤトはなんだか恥ずかしくなる。  ヤトは、コーシュ村でも容姿が優れているおかげで伯爵家の王都で使用人に求められたすぐ上の双子の兄と姉のことを思い出したが、兄弟たちには申し訳ないが、隻眼とはいえ、イズラエルの美しさはレベルが違った。 ――イ、イズラエル様……カッコいいな  顔を赤らめながら、ヤトは照れ笑いを浮かべた。小さな尻尾がブンブンと音をたてるかのように振りまくってる。その姿の可愛らしさに、イズラエルは笑みを大きくした。

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