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王道な異世界にトリップ-2
「さっきの話なんだけどさー!イイぜ!俺教えてやるよ!」
俺どころかイケメンをも待たず食事を始めていた転校生は肉の塊を頬張りながら自信満々に言い放った。これにはさすがのイケメンも顔をしかめたけれど、何も言わずに椅子に座った。
それから転校生はよくそんなぽんぽんと話題がでてくるなーと言うくらい話続けた。なかなか言葉にならず無口なワンコと思われてしまっている自分からしたら羨ましい話である。目指せ脱ワンコ!帰ったら絶対そのキャラ設定を変えて見せる!なんてよくわからないけど美味しい肉の塊や、向こうでは見ないような色の野菜が入ったスープを食べながら意気込んだところで大切なことに気が付いた。
「…向こうの世界には帰れるのか…?」
俺のつぶやきに気付いた転校生は「え?帰りたいの?」とさも意外だと言いたいような表情を見せた。
「帰れる。とは言い切れない。帰った者もいる。けれど、その方法はわかっていない。」
優雅にワインらしきものを飲んでいるイケメンは「俺にもそれ飲ませろよ!」と騒ぐ転校生を無視し、おそらく嘘はついていないのであろう真面目な顔をしてそう言った。
「何度か行き来した者もいたらしい。だが、こちらからは呼ぶことは出来ても還すことは出来ていない。しかし、向こうの者には出来るらしい。詳しい事がわからなくてすまない。」
うるさい転校生にデザートを与えることで黙らせたイケメンは「だが、出来る限りの協力はする。そして、こちらでの生活の面倒は見る。」と約束してくれた。
しかし、このイケメン転校生の扱いになれるの早すぎだな。そして、無視されてもしゃべり続けるコイツの思考はどうなっているのか不思議だ。きっと俺には考えられないような思考回路なのだろう。一回色々聞いてみたいと思うけど、それこそ何日あっても足りなさそうなのでやめておこう。
食事を終え、案内された部屋は寝ていた部屋よりも一回りほど狭かった。それでもだいぶ広く落ち着かない。そうでなくても最近は一人でいる事が少なく大抵会長が傍にいたのだから。
しばらくソファに座り準備してくれていたお茶を飲みながらぼぅっとしていたら、ノックもなく扉が開き転校生が入ってきた。ノックくらいしろよ。とは思うけど、ノックして入ってくる転校生は想像できなくて、なら仕方ないかとあきらめてしまう。
「寂しがってると思って来てやった!」
なるほどコイツでも寂しいなんて思うんだなと可愛く思えたのでお茶を入れてやると「コーラ飲みたい!」などと言うのでやっぱり可愛くないと思った。
「帰りたいと思わないの?」
二人掛けのソファにだらりと座りながらお茶を飲む転校生に尋ねてみた。
「じゃあさ、お前は何で帰りたいの?待ってるヤツでもいんの?会いたいヤツいんの?」
転校生はそう苛立ったように早口で言った。こんな転校生を見るのは初めてで、何かいけない事を聞いてしまったのかと思ったけど、些細な質問だったしこんなになると予想もしなかった。
突然わけもわからずこの世界に来ていた。自分の意志ではなかったのだから帰りたいのが普通だと思っただけだ。だけれど、きっと転校生は帰れなくても良いと思っているのだろう。待っている人はいないのだろうか。会いたい人はいないのだろうか。俺を待っている人はいるのだろうか。会いたい人はいるのだろうか。考えると怖くなった。
俺一人いなくなってもきっとあの世界は何も変わらず動いているのだ。
いつも眠っているものより上等な寝具に横になり、あるはずの温もりがない事に落胆した。やっぱり、あの世界に帰りたいと強く思った。
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