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王道な会長が迎えにきた-1

転校生は毎日楽しそうに外へ出かけていき、子供やたまに大人と色々なスポーツをしているらしかった。今は運動会をやると毎日準備に大忙しらしい。 それを見ていると、学校生活では見えなかった頑張る彼を頼もしく思ったり羨ましく思ったり少し複雑だった。きっと、帰る方法が見つかったとしても彼は帰らないだろう。 なんの未練もない転校生を見ていると少し寂しく思う自分がいたりしてあんなに、うるさくてどうにかならないかなんて思っていたのに世界が変わるだけでこんなにも変わるものなのかと疑問すら感じた。 俺は、元から自分から何かをし始めるというのが苦手という事もあり、午前中は過去の記録を整理し午後は王の仕事を手伝いながらもっとスムーズに進む方法を考え提案した。些細な事しか出来ない俺に王も他の人も感謝の言葉をくれたけどまったく役に立っているという実感はなかった。 俺は何で何も出来ないんだろう。何で俺がこの世界に来てしまったのだろう。転校生だけで良かったのではないか?または他の誰かの方が良かったのではないか…あの場にいた会長の方が絶対役にたったはずだ…でも、その場合向こうに残されるのは俺になったのか。それでも、副会長だって会計だっているんだから今ほど心細くないはずだ…きっと…。 でも、それでもやっぱり会長に会いたいなぁ…と思った。きっとこれは依存だ。副会長や書記、親衛隊隊長や姉にだって会いたいと思う。けど、それとはもっと違うところで会長に会いたいと思うのだ…。 姉に毒されたか?と思わくもないけど、ここは男らしく認めようじゃないか。なんてぐるぐる考えながらも何か帰れるヒントがないか探し続ける。 気持ちを自覚してしまえば、簡単な事でここでの生活に目標も出来た。 けど、それは俺を焦らせるだけで一歩も前には進ませてくれなかったのだった。 今日も窓の外からは転校生と子供の楽しそうな声が聞こえる。俺はと言えば情けない事に熱を出してしまいベッドから出ることが出来なかった。 原因はわかっていて、考え始めてしまった憶測のせいで睡眠不足気味なのと考えすぎなのだと思う。簡単に言えば知恵熱だ。 俺達がこの世界に来て一か月は経った。記録で見るとそれこそ農業であったり化学であったり色々なものがあった。昔のものだとわかるものから、自分が生きている今と変わらなく思えるようなものまであった。なのに、今この世界で俺と転校生以外、もとの世界の人物に会っていないのだ。 何故、そんな事が起きているのだろうか。あの王が会わせないようにしているのだろうかと考えたけれど、それはないと思った。毎日、忙しいだろう中で何とか時間を作り最低一回は食事を一緒にしている王はそんな無駄な事をするようには思えなかった。 そして、転校生が教えるという理由の元一緒に遊んでいる子供の中には俺達の世界の子供や孫もいるらしい。ならば、わざわざ会わせないようにする必要はない。 だったらどうしてなのだろう。 もしかしたら…という考えに取りつかれ、うまく眠れることが出来ていないのだ。 もし、この世界の方が進む時間が早かったら?あの世界からこの世界にきた俺達の時間の進み方がこの世界の人間より早かったら?寿命を全うできない何か理由があるのだとしたら…? 俺はのんきに眠っている場合ではないし、早く帰る方法を見つけなければいけない。気持ちだけが逸り不調を訴えることが増えた俺を、王をはじめとした人たちも心配をしている。 それを、やはり異世界の人には何か弱るような理由があるのではないかと疑ってしまう。 ずっとこのままだったらどうしよう。元の世界に帰れなかったらどうしよう。もう二度と…会長に会えなかったらどうしよう。 未だに帰り方を見つけ出す事は出来ていない。 自然と溢れる涙を止めるように、枕に顔を押し付けた。

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