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王道な会長が迎えにきた-3

話をすると言っていたのに食事中は静かなものだった。 会長はあり得ない色の食べ物に驚くのを笑ったり、副会長と会計が心配で夜も眠れないと言って仕事中寝る話や、庶務の双子が「わんちゃんがいなくなったーなんでー!!!」と騒いでる事を聞いた。学園で犬でも飼っているのだろうか…帰ったら見せて貰えるかな。と聞いたら「それは難しいだろうな。」と笑った。 見分けがつかなかったくらいでそこまで嫌われてしまっているのか…と落ち込めば「そうではないんじゃないか?」と王に慰められてしまった。 食事が終わり、お茶を飲み始めたところでやっと話がはじまったというか会長が帰ると言った。 「連れて帰る。」 ただそう言った会長に王は「仕方ない。」と頷いた。そしてその後、立ち上がると深く頭を下げ「申し訳なかった。」と謝罪をした。 あとは、俺達に説明したように何故ここに呼ばれたのかを一通り話した。その間会長はずっと天井を睨んでいた。 「彼を傷つけたかったわけではない。結果的に心労を重ねてしまう事になってしまったのは申し訳ないと思っている。彼が穏やかに過ごせるように何でもするつもりではあった。…けれど、君が迎えに来てくれて良かった。」 王はやはり優しいと思った。俺なんかの為に色んな事を考えてくれたのだと思う。毎日忙しいのに時間も作ってくれていた。 けど、何も出来なかったのは俺だ。 「いや、俺にもこいつにもいい機会になったと思えなくもない。」 そう言って会長は笑った。 「明日、朝に帰る事になる。今日はこいつの部屋に泊って良いか?」 すぐ帰れない事に落ち込んだ俺に王は、夜転校生も交え食事をしようと部屋から足早に去って行った。 俺は会長に色々な場所を案内しながら部屋に戻り、そのまま色々話して時間を過ごした。 夕飯の準備が出来たと呼ばれたので、いつも食事をしている部屋に行くと転校生はもうすでに来ていて王に何やら一生懸命喋っていた。それがいつもと何一つかわらなくて、明日帰れるのが嘘みたいだと思った。 「お。久しぶり。」 会長に気付いた転校生は片手をあげ笑った。会長も「相変わらずだな。」と笑い、ここに来る前とこの二人は何も変わっていなかった。 「やっと迎えに来たのかー。酷い飼い主だ。」 運ばれてきた料理をかき込みながら笑う転校生はいつか会長が迎えに来ることを知っていたようで、俺は首を傾げた。 「だって、お前をほっておくわけないだろ?」 当たり前のように言う転校生に会長へと視線を移すと会長はわざとらしく目をそらした。 「お前は…此処に残るんだろ?」 会長の問いに「話そらしたー!」と笑ったあと力強く頷き「あっちには俺の居場所ねーからな…。」と視線を落とした。 その意味が分からず聞きたかったけど、なんとなく聞いてはいけない気がした。あの時激昂した彼にはきっと聞かれたくない理由があるんだと思う。 それを今聞くべきではない。俺が聞くべきではない。 「彼の事は心配しなくて良い。こちらで不都合のないようしよう。」 今まで黙っていた王がしっかりと約束をしてくれた。俺はちっとも役に立たなかったけどいるだけでも違ったんじゃないかと思いたい。それをこれからはこの異世界で一人になるのだ。一人にしてしまうのだ。 俺はなんだか息子を親戚に預けるような気持になり、頭を深く下げた。 会長はそんな俺の頭を優しく撫で、転校生はわざわざ席を立って俺のところに来て頭を叩いた。痛かった。

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