13 / 112

第13話

 望月の言葉を聞いて、桃悟が秀麗な眉を顰める。 「月華からは入会については特に何も聞いていないが」  『SILENT BLUE』には、オーナーである月華の許可がないと入店することはできない。  オーナーの客として連れて来られた人間は、本人が必要ないと言わない限りは大抵会員になる。店を利用する、しないに関わらず、それが神導月華というコネクションを持つ証になるからだ。  竜次郎の場合は、オーナーが湊に配慮してくれたのか、こういう店を好むようにも思えないから本人が望まなかったか。あるいはその両方だろう。 「うちの客としてじゃなくて湊を名指しだったから、一応このビルの住人に知り合いが訪ねてきたとかじゃないかを確認したかったらしい。追っ払ってくる?」  どちらかといえば可愛いと評されることの多い望月だが、実は武闘派だ。ぐっと拳を握っているので慌てて止める。 「て、店長、少しだけ時間もらっていいですか?話をしてくるので……」 「えぇ?不安がありすぎて俺は許可できない。殴るのがよくなければ通報した方が」  心配する望月の言葉を一歩前に出ることで桃悟が止めた。 「……それはお前の意思か?この店への義務感なら俺が対応する」  真っ直ぐに見つめられて、湊も居住まいを正す。 「……昨日は逃げ出してしまいましたが、やっぱりきちんと話をするべきではないかと思いました」  本当は、きちんと話ができる自信は全くない。昨日オーナーにはあの時のことを話せたが、一人になるとやはり思い出して辛かった。終わったこととして向き合うにはもう少し時間が欲しい。  ただ、竜次郎はきっとここで誰か他の人間が対応しても納得しないというのはわかるので、自分が行くのが正しいのだろう。  覚悟が伝わったらしく、桃悟が頷く。 「三十分で戻れ」 「桃悟!」 「桜峰も子供じゃないんだ。自分の過去の始末くらい自分でつけられるだろう」 「そういうことじゃないだろ。物理的に危険なんじゃないかって」 「副店長、大丈夫ですから。……竜次郎は、無闇に人に暴力を振るうような人ではないので」  重ねて説得すると、望月は諦めたように溜め息をつき、握った拳を解いた。 「…………話通しとくから、部屋とかじゃなくて下のコミュニティスペースで話すこと。三十分過ぎたら殴りに行く。いいな」 「あ……ありがとうございます!」  行ってきます、と歩き出した後ろの方から、何やら不穏な会話が聞こえてくる。 「桃悟、殴るんじゃなくてフロントスープレックスでもいいか?」 「望月、相手は月華の商談相手だ。殺るなら月華に許可をとってからじゃないとまずい」 「月華なら絶対いいって言う。あれは月華の好みのカオじゃないはず」 「……まあ頑丈そうだったから少しくらいは正当防衛の範疇か……」  竜次郎の無事のためにも、手早く話をつける必要があるなと感じて足を速めた湊だった。

ともだちにシェアしよう!