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第14話

 エントランスホールの奥にあるコミュニティスペースは、有料だが住人ならば誰でも利用することのできる場所だ。  簡易なキッチンなども付いていて、住人は訪問客を部屋まで上げずともそこでもてなすことができるようになっている。  降りていくと、コンシェルジュが案内してくれたのだろう、既にソファに長い足を組んで座っていた竜次郎が、開いたドアに気付いてうっそりと顔を上げた。 「よお」  気怠げな低い声。  一瞬学生時代に戻ったような錯覚に陥る。  だが、派手な色のシャツに仕立ての良さそうなダークグレーのスーツを合わせ、足元は顔が映るくらいピカピカに磨かれた革靴。軽く後ろに流した少し襟足の長い髪型はあまり変わらないけれど、別れた時にはまだ残っていた少年の面影が抜けて、ぐっと大人っぽくなっていて、時間の流れを感じさせた。  そして纏う空気はその『いかにも』なファッションよりも更に重い。一般の人ならばまずお近づきになりたいとは思わないだろう。  ちゃんと極道になったんだな、などと思うのは変かもしれないが、竜次郎の祖父の願いは叶ったと思われた。 「ひ、久しぶり……」  何と挨拶していいかわからず、湊はぎこちない笑顔を浮かべた。  座るよう促されて、ローテーブルを挟んで向かいのチェアに浅く腰掛ける。  その距離感に竜次郎は何か言いたげな表情を浮かべたが、すぐに改めて懐からスマートフォンを取り出した。 「お前、この後仕事なんだろ。……何であんなヤクザの下で働いてんのか知らねえが……」 「オーナーは、他のところでのことはわからないけど、俺たちには優しいし、『SILENT BLUE』もいいお店だよ」  思わずかばうと、目の前の男は眉を寄せる。 「お前な、あいつは……、……いや、いい。とりあえず今の連絡先教えろよ」 「えっ、だ、駄目」 「ああ?何でだよ」 「スマホ……仕事用しかないから……」  店から支給されたものしか持っていないのは本当のことだ。ただ、私用に使ってもいいと言われてはいるけれど。  竜次郎が難しい顔をして黙ったのを切り上げ時だと思った。  連絡手段を開示しないことで、やんわりとだが、これ以上交流を持ちたくないという意図は伝わっただろう。 「久しぶりに会えて、嬉しかった。会いにきてくれてありがとう」 「あの時のことはなかったことにしたいって、そういうことか?」  立ち上がりかけたところを、感傷を湛える瞳に覗き込まれて、言葉に詰まった。  いきなりいなくなった湊を、竜次郎はどう思ったのだろうか。  探しただろうか?それとも、裏切られたと怒っただろうか?  なかったことになんか、湊だってしたくなかった、けれど。 「あ、あの時は……、……さ、寂しかった、から。でも今は、『SILENT BLUE』のみんながいるし……」 「嘘つけ」  強く偽りだと断定されて、ドクンと心臓が跳ねる。  竜次郎の鋭い眼光が湊の心を暴くように閃いて、慌てて目をそらして立ち去ろうと腰を浮かしたが、読まれていたのか素早く腕を掴まれてしまった。 「うそ……じゃ、な……」 「俺だってお前が昨日、会いたくなかったってツラしてたら、来てねえよ」  自分はどんな顔をしていたのだろう。  会いたくないわけがない。会いたかったに決まっている。  今だって、全てを話して、本当はずっと会いたかったと縋って、甘えてしまいたい。  だけど、それはしてはいけないことだ。竜次郎のためにも。……自分のためにも。 「離し、て」 「本当のことを言ったら離してやる」 「竜次郎……っ」  か弱く抵抗する湊にふっと影が差す。  ふっと嗅ぎ慣れないグリーンノートが近付いて、唇が重なった。

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