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第15話

「っ……………」  触れる吐息、腕を掴む手は熱くて、一瞬頭の中が白く霞む。  抵抗を忘れた口の中に忍び込んできた舌に舌を絡め取られると、全身が痺れたようになって、力が抜けてしまいそうでぎゅっと目を瞑った。  この熱を、どれほど反芻しただろう。  竜次郎のいない生活にはずっと慣れなくて、あの頃の夢を見ては起きて失望するのを繰り返す日々もあった。  広い背に縋りそうになった手を、…しかしぐっと握って顔を背け厚い胸を押し返す。  流されてはいけない。  忘れては駄目だ。  あの日竜次郎の祖父とした約束を。……母と同じ血を持つ、業の深さを。  離れてみて、やっとわかったのだ。  どれだけ竜次郎が湊に時間を割いてくれていたかを。  寂しいと口にするよりも早く、いつも他の物をすべて差し置いて湊のもとへ駆けつけてくれた。  愛されていたと思う。湊はずっとそれに甘えていた。  竜次郎のことを必要としている人はもっと他にもたくさんいるのに。 「っ駄目、だよ……!」 「何が駄目なのかきちんと説明しろ」  頑なな湊に、竜次郎もまた食い下がる。湊とて説明出来たらいいが、できないのだ。  困り果てて眉をハの字にした。 「さ、さっき言った、から」 「お前自身がどう思ってるかは何も言ってねえだろ」 「う………」  竜次郎はもともと、稼業柄なのか事の真贋を見抜くのがうまい。  こんなに感情がぐらついている状態で、説得できるような相手ではなかった。  こういう時の対処法は一つ。 「――あっ、竜次郎チャック開いてる!」 「何っ!?」  それは……男なら誰もが下を向いてしまう魔法の言葉。  狙い通り気がそれて拘束が緩んだ隙をついて竜次郎から距離を取り、そのまま脱兎のごとく逃げ出す。 「あっ、おい湊!だましやがったな!」  申し訳ないとは思ったが、今は逃げるしかない。  竜次郎の声を背に一目散にエレベーターホールまで走ると、呼ぶまでもなくちょうど上から降りて来たところで、幸運に感謝する。  扉が開くと、やはり心配できてくれたのだろうか、望月の姿が見えたので、押し戻すようにして駆け込んだ。 「湊!?どうした!あのヤクザに何か…っ」  ただ事ではない様子に気付いたのだろう、望月が表情を曇らせて、エレベーターから出ていこうとするのを何とか止める。 「ちが、違うんです、竜次郎は、何も悪くなくて、俺が……、俺……っ」 「湊…?」 「俺っ……精神修養の旅に出ます!」 「……………………は?」  刹那の静寂。  チーン、と音を立てて扉が閉まった。

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