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第17話

「(どうして…こんなことに…?)」  視線の先には銃を持ったアジア系の顔立ちの男達。そして飛び交う異国語。  出向という形で出向いた先の『SHAKE THE FAKE』で湊は、何故か椅子に座らされ後ろ手に縛られていた。  隣には美少女と見紛うばかりの美しい青年が、この事態に何の感慨も抱かぬ無表情で同じように拘束されている。  少し時間を戻す。  オーナーの計らいで翌日から姉妹店である『SHAKE THE FAKE』に出向することになった湊は、寝て起きると荷造りをして部屋を出た。  滞在するのはホテルなので、荷物は小さなカートひとつ。その上には相棒のうさぎが乗っている。  わざわざ持っていくのはビジュアル的にもどうかと思ったが、孤独な夜に頼れる相棒がいないのは不安だった。  手配してもらったホテルに荷物を置いて、少し地理を把握しておこうと昼食がてら周囲を歩いてから店に向かった。  無論『SHAKE THE FAKE』の開店は『SILENT BLUE』と同じ十八時からなのでまだ誰もいないことはわかっているのだが、店舗の入っているビルに支店長が住んでいるので先に訪ねてみようと思ったのだ。  支給されているスマホには、機密保持のためらしく店独自のスタッフ専用のチャットや電話ができるアプリが搭載されているので、それを利用して朝支店長に挨拶のメッセージを送ったが返信はない。独特な雰囲気の人だが、気さくで、短くとも何かしら返事をくれそうなのに、無反応というのが少々気にかかっていた。    店舗のあるビルに入ろうとすると、社員証をかざすまでもなく近づいただけで自動ドアが勝手に開いた。守衛の姿もない。まずは店の方に向かうが、従業員用の出入り口も、バックヤードの鍵も閉まっていない。 「(どうして……?誰もいない……)」  こんなに人気が無いことがあり得るのだろうか。まさか何か起こっているのかと、中の様子をうかがいながら、恐々フロアに続くドア開けた。  『SHAKE THE FAKE』の内装は、怪しくなりすぎない程度にエスニックな風情だ。  木目のフロアタイルに一歩を踏み出した湊は、この建物に入ってからようやく初めての人影を発見した。 「八重崎(やえざき)さん…?お疲れ様です」  挨拶に、客席でノートPCを開いていた人物が顔を上げる。 「桜峰、湊…………」  抑揚の少ない、ぼんやりとした口調。  八重崎木凪(こなぎ)。オーナーの親戚で、たまに『SILENT BLUE』でキャストとして接客をしている。  クラブで働きたいのではなく、オーナーの指示なのか、何か他の目的があるらしいのだが詳細は不明。店長すらも、彼のことはあまりよく知らないと言っていた。  すでに成人しているらしいが、二次元の美少女がそのまま現実世界に来てしまったような可憐な美青年だ。  透き通るような肌、体は触れたら折れるのではないかというほど細く、背は湊よりもだいぶ小さい。注意深く見ると顔のパーツはオーナーとよく似ているが、表情と呼べるものを見せたことはほとんどなく、ロボットか何かだろうかと思うくらいに平坦な反応しかしないので、あまり似ているという印象はなかった。  天上の美貌を持つ八重崎が無表情のまま首を傾げる。 「桜峰湊は、どうしてここに?」 「あ、俺は今日から出向という形でしばらくこっちで働くことになってて」 「……聞いてない……。確認不足だった」 「昨日突然決まったので……すみません。八重崎さんは、今日はこっちでお仕事……とか……?」 「………………仕事、といえば仕事……?」  違うのだろうか。というか、聞かれても。  そういえば、と前置いた八重崎は、爆弾を投下した。 「……某組のガチムチ極道と運命の再会があったって聞いた……」  何もない場所で歩いてもいないのに滑りそうになって何とか踏みとどまる。 「が、ガチ……?りゅ、竜次郎のことですか?……運命……?」  どこからつっこんでいいのか、というかそもそもつっこんでいいのかどうかもよくわからない。 「再会ネタは不変の人気……詳しいことを聞きたい……」 「………えええっ?」

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