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第20話

 八重崎と話をしていると、男達の視線を感じてハッとする。  勝手に話すなと怒られるだろうか。  警戒したが、黙らせようと脅されたりすることもなく、こちらを見て湊について何か話しているようだ。粘りつくようなそれになんとなく嫌なものを感じて眉を寄せた。 「今度は何を…話してるんでしょうか」 「リーダーを待つ間、八重崎木凪は駄目でももう一人なら輪姦してもいいんじゃないかという相談をしてる」 「……っ」  流石に今までの人生経験から、自分は男だからそんなことをされるわけがない、などと楽観できないことはわかっているが、当然受け入れ難く、背中を嫌な汗が流れた。 「心配……しなくてもいい。たぶんすぐ助けも来るし、巻き込んだだけの桜峰湊にそんなことはさせない…」 「八重崎さん……」  力強く……というには無機的だが、八重崎の落ち着きが今は心強い。  八重崎が男達に何事か話している。その言葉に男達があからさまに色めき立ったのがわかった。 「これで…大丈夫…」 「何を言ったんですか?」 「逞しい獣達に荒々しく抱かれるのが好きだって言った。隣のは可愛いけど病気持ってるからやめたほうがいいとも言っといたから安心していい…」 「ちょ…!?何を言っちゃってるんですか!?」  何一つ安心できない説得が行われていたらしく、ぎょっとする。 「……?……桜峰湊も……醜いオークのような雄達にその汚れのない柔肌を蹂躙されたかった…?」  「い、いやいやそっちじゃなくて!」  というか何だろうその官能小説風。 「病気かどうかは検査をしないとわからないし……」 「そ、そこでもなく!なんでそんな自己犠牲の精神を発揮しちゃってるんですか…!」  「時間が稼げそうだし…暴力は慣れてる…」 「そんな……」  八重崎がどんな人生を歩んできたのかはわからないが、慣れてるなどと、そんな悲しいことを平気で言わないでほしい。  こんな細い体、少しでも乱暴に扱われたら本当に壊れてしまう。  それに、どちらの身が大切かを考えた場合、断然八重崎の方が優先順位が高いはずだ。 「俺の方がいいって、あの人達に言ってください!」 「自分で言えばいい。呉語が喋れなくても英語なら通じるかもしれない」 「っ……」  欲望に目をくらませた男達の手が伸びてくる。まるで、自分に伸ばされているかのように錯覚して、体が震えた。 「やめ……っ!」   「木凪、お前は一体何をやっているんだ」  唐突に低い声がして、ぴたりと男たちの手が止まる。  気配も、慌ただしさもなく静かに開いた客用の扉の前に立つ人影。  長身に細身のスーツがよく映える、苦虫を噛み潰したような表情でさえなければ異性が放っておかないであろう端正な顔立ち。  店長と副店長曰く守銭奴、…こと店の経理を担当している三浦基武(もとむ)だった。

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