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第22話

 八重崎が拘束を解いてもらったのを見届け、呼んでもらったタクシーでホテルへと戻ってきた。  店から支給されたスマホに入っている通信用のアプリは八重崎が作ったものらしく、今回本人曰くの『口実作り』のために約一日不通になっていたらしい。部屋に入ったタイミングで海河からメッセージが届いた。  『月華から電話は受けてたんだが、メッセージは今見た。今日のことは基武からも話聞いたけど、ほんと災難だったな。今夜はゆっくり休んで、明日よろしく』  その気遣いに対するお礼と、明日からお世話になる旨を返信すると、座っていたベッドに倒れこむ。  やはり八重崎の言葉が気になって落ち着かなかった。  オフィスやショッピングモールもある複合施設内の高層階からの横浜の眺望は、これが観光ならば楽しめただろうが、考えることが多すぎて、眼前にあっても目に入ってこない。  荷解きすらもせず、相棒のウサギを引き寄せて抱える。  考えなくてはいけない。これからのことを。  五年前のあの選択を、後悔はしていない。何度あの場面に戻っても自分には他の選択肢は思いつかないだろう。  だが、これからのことはどうか。  逃げ出すのではなくきちんと終わりにしなくてはいけないという気持ちが、八重崎の言葉で強くなってきていた。  竜次郎の今の気持ちや状況はわからない。だが、昨日の態度を見れば、湊とのことが綺麗に終わったことになっていないのは確かだった。 「(俺は……本当に自分のことしか見えてないな……)」  相手の為を想うなら、嘘でも辛くても別れを告げなくてはいけなかったのだ。  今ならできるだろうか。竜次郎には嘘だと言われてしまったが、五年前とは違って湊には『SILENT BLUE』という居場所があるのは本当のことだ。  昨日は全く話にならなかったが、きちんと言葉を尽くせばわかってくれない相手ではないと思う。  ただ……。  『人は、簡単に死ぬ。どちらかがいなくなれば、残った方は未解決の問題を一生抱えて生きていくことになる……。受け入れがたい結末になるかも知れなくても、始めた以上は最後まで真摯に相手と向き合わないと駄目』  オーナーの関係者や松平組が極道であると、わかっていなかったわけではない。  ただ、オーナーも竜次郎も、湊に暴力を振るったり、そういう場面を見せたりしなかった。  八重崎と湊を拘束していた男達の持っていた武器は、当たり前だが人を殺すことのできるものだ。  それを恐れもせずに平然と制圧してしまった三浦も、暴力は慣れていると言い放った八重崎も、あまりにも日常からかけ離れていて、今になって震えがくる。  日常的に命のやり取りをしている人たちなのだと、今更ながらに理解できた気がする。  もしも、竜次郎が命を落とすようなことがあったら?  生きて、幸せでいてくれると思うからこそ、一人でも生きて行こうと思えるのに。 「竜次郎……」  名前を口にすると、そのあまりの頼りなさに、不安な気持ちが増大する。  湊は居てもたってもいられず、ウサギを自分の代わりのようにその場に置き、部屋を後にした。

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