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第40話
意思力や自制心というのはどうすれば鍛えられますか、と誰かに聞きたい。
『どうした、湊』
耳元に聞こえてきた低い声に、申し訳なさで項垂れる。
「あ、あの…ごめんね、竜次郎、どうもしないのに、こんな時間に電話して」
結局。
風呂を出て寝る支度をしてベッドに潜り込んだが妙に目が冴えて、竜次郎から渡されたスマホをもてあそび、最終的に仕事中や就寝中なら出ないだろうしあと無事かどうかも確認したいし…とかなんとか自分への言い訳を並べて、電話をしてしまった。
何コールも待たずに繋がってしまって少し焦る。外なのだろうか。電話の向こうは何やら賑やかだ。
『何もねえならその方がいいだろ。この時間じゃまだ寝てねーよ。店に出たんだろ、大丈夫だったのか?痛みが出たりしてねえだろうな』
竜次郎は、いつも優しい。
心配してもらえるのが申し訳なくもくすぐったくて、じわりと笑みがこぼれた。
「みんなも気を遣ってくれたし、全然大丈夫」
『……そうか。無理すんなよ』
「うん、ありがとう……」
なにか言わなくちゃ、という間が出来てしまった。
今何をしていたのかとか聞いてもいいのだろうか。
竜次郎は家業に関してあまり湊に話したがらないところがある。
巻き込みたくないという気持ちからだろうが、素人に知られて下手に口を出されたくないというのもあるかもしれない。
『……やっぱ、なんかあったのか?声に元気が足んねえぞ』
逡巡が伝わったのだろう。トーンの落ちた声にハッとする。
「あっ、ご、ごめん。本当に、別に何でもないんだけど」
『だけど?』
「……お風呂に入ってたら、竜次郎のこと思い出しちゃって」
言葉の途中で何かを盛大に噴き出した音がして、電話の向こうから「兄貴!?」「汚ねえ!」「ちょ、かかったんですけど」という悲鳴が聞こえた。
何かトラブルでもあったのだろうかと心配していると、竜次郎が咳き込みながら電話口に復活する。
『ばッ……湊、お前な』
「だ、大丈夫?竜次郎。ごめんね、俺、寂しくなったくらいで電話して」
『は?寂し……?』
「え?うん……。しばらく竜次郎と一緒にいたから、…少しだけ」
溜息の気配。
『……もういい。お前、ちょっと待ってろ。三十分でそっち行くから』
「ええ?い、いいよ、もう遅いし、声も聞けたから大丈夫」
いいから待ってろと怒鳴るように言い残して、電話は切れた。
思わぬ展開に、失敗したとため息をつく。
無事な声が聞ければそれでよかったのに、結局いらない心配をかけてしまった……。
竜次郎だけでなく上司や同僚も過保護と思えるほどに気を遣ってくれている気がする。
きっと湊が頼りないせいだろう。もっとしっかりしなくては、呆れられてしまう。
好きだから一緒にいたいのと、寂しいから側にいて欲しい、というのは似て非なるものだ。
信頼と依存は違う。
幼い頃に見た両親の姿が微かに脳裏を過り、湊は唇を引き結んだ。
「(気を付けなくちゃ……ただ甘えるだけの関係にはなりたくない)」
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