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第48話
「あの人は……?」
閉ざされたドアを見つめたまま首を傾げた湊に、怒りが冷めやらない様子のヒロが教えてくれる。
「中尾宗治、この辺の半グレどもの頭ですよ」
「半グレっていうのは?」
「……………………………嫌な奴らです」
「……嫌な」
だいぶ間をとっての説明で……仲が悪いのだけはわかった。
困惑している湊を見かねて、日守が説明してくれる。
「半グレというのは暴力団に属さない犯罪組織のことを指す言葉です」
「暴力団とはどう違うんですか?」
「半グレは暴対法の取り締まり対象になりません。代紋を掲げて堂々と犯罪を行うことが難しくなったので、それを見て育った世代が地下に潜った、というのが実状に近いのではないかと」
組織が大きくなったり、犯罪性が凶悪になると『準暴力団』として取り締まりの対象に入れられるらしいが、それも暴力団対策法や暴力団排除条例ほどの抑止力にはならないと日守は語った。
暴力団という言葉とこの場所とが結びつかなくて、その延長線上で先程の一件と今の説明もうまく直結しない。
「ええと…じゃあ中尾さんは恐い人なんですね…?」
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そのせいでぼんやりとした感想になってしまうと、またしても全員が脱力したのを感じた。
「いやあの、湊さん……恐いってんなら兄貴とかも十分恐い人なんじゃ……」
「えっ、あ………そう、でした」
竜次郎のことを恐いと思ったことはないが、正直にそう言うのもどうかと思い曖昧に頷く。
「湊さん……流石……」
ヒロの苦笑に湊も控えめに笑い返すと、唐突に大きな手が後ろから首を掴んだ。
「……湊、こっち来い」
湊が奥の部屋に連行されるのを見て「ちょっ……」「え?何、お仕置き?」等のざわめきが聞こえてきた。
ドアを閉めた竜次郎を見上げる。
「竜次郎、どうかしたの?お仕置き?」
がくっ。
つんのめりかけた竜次郎につられて転びそうになって、慌てた。
「竜次郎?」
「っ何でお前を仕置かねえといけねえんだよ!ったく……変なのが来てダメージ受けてねえか気ィ遣ってんのに」
痛いくらいに頭をかき混ぜられる。
「ご、ごめん。俺のこと心配してくれたんだね。竜次郎がいてくれたから、全然平気だったよ」
「……まあ、ダチと勘違いしたくらいだからな……」
「場を白けさせたからエッチなお仕置きされちゃうのかと思ってドキドキしちゃった」
「されてえのかよ」
すかさず腰を抱き寄せられて顎を掬われて、近付いた顔に鼓動が早くなった。
「……竜次郎がしてくれることなら、何でも嬉しいよ」
「……お前な」
ぐっと眉を寄せる竜次郎。湊は笑いかけて瞳を閉じた。
「でも、今日は俺、そろそろ帰らなきゃ」
唇が重なりかけたところで、そっと竜次郎を押し返す。
「何?……まだいいだろ」
竜次郎は素直にそれに応じたが、不満そうに渋面を作った。
「四時には戻ってないと間に合わないから」
シャワー浴びてスキンケアして……と指折り数えると「女子かよ」と竜次郎がげっそりする。
引く気持ちはわからないでもないが、スキンケアを怠るとオーナーからお説教された挙句に丸一日エステに放り込まれたりするのでとても大事なのだ。
「竜次郎も、俺が綺麗な方が嬉しいでしょ?」
「まあ……そうか……?お前が一ヶ月風呂入ってなくても別に平気だけどな」
「ええ……?俺は一ヶ月お風呂に入ってない竜次郎はちょっと嫌だけど」
「マジか」
……普通はそうじゃないかな。
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