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第106話

 見つめあった瞳が見えないくらいに近くなり、湊はそっと瞼を閉じた。 「ん…………、っん、」  深くなる口付けに夢中になっていると、服を脱がされて布団の上に転がされる。  カーテンの隙間からちらちらと差し込む朝日は、起きた時よりも随分と明るく、湊の肢体をまばらに照らした。 「あ……、竜次郎、する、の……?」 「嫌か?」 「ううん……。でも、さっきもした、から……」  疲れていないだろうか。そんな心配を「なわけねえだろ」と笑い飛ばされる。 「お前を抱く元気がないなんて、病気の時くらいじゃねえか」  それともお前は休みたいか?と甘やかすようにこめかみにキスを落とされて、小さく首を振って湊も至近の竜次郎にキスを返した。 「あ……っ、……あ、……っ」  愛撫よりも早く繋がりたいという湊の希望を、竜次郎は焦らすことなく叶えてくれた。  隘路の奥深くに灼熱が入り込む。  体の中に竜次郎の鼓動を感じると、幸せでじわりと視界が滲んだ。 「っ……さっきやったから、まだお前ん中やわらけえな……。痛くねえか?」  気遣われても上手く言葉が出なくて、微かに頷くことで応える。  先刻が最後になるかもしれないと思っていた分、喜びは大きく、また悦びも深い。  りゅうじろう、と声にならない声で呼ぶと、溜まった涙がこぼれた。 「どうした」  気遣わしげな声で問われて、優しさにまた涙ぐんでしまいながら手を伸ばした。 「嬉しい、の…」  手が届く前に、掬うように抱き締められる。  折り畳まれた態勢は苦しいのに、ただ幸せだった。 「あっ…あ……あーっ……」  ゆっくりと抜き差しされると、気持ちがよくて素直な声が止まらなくなる。  抜かれるタイミングで、きゅっと引き留めるように締めつけてしまうと、至近の息が乱れるのがわかった。 「ゆっくりすんの、好きか?」 「んっ…、きもち、い…」  とんとんと、奥に入り込まれて揺すられるのが、甘やかされているようで脳を痺れさせ、開きっぱなしの口の端から唾液がこぼれてしまう。  「あ…っ、でも、竜次郎の気持ちいいこともいっぱいして…」  自分だけ気持ちよくなるのが嫌で、震える唇で訴える。  竜次郎は一緒に考えると言ってくれた。  気持ちいいことも一緒がいい。  竜次郎は一瞬動きを止めると、 「……お前にゃ敵わねえな」  そう呟いて口元を綻ばせた。 「あ……っ、りゅうじろ、おおきくなっ……」 「好きな奴にそんなこと言われて、滾らねえ奴はいねえだろ」  ぐん、と突き上げられて、声を上げて仰け反る。  動きが激しくなるとしがみついていられなくなって、ぱたりと落ちた手は力なくシーツを掻いた。 「っ……さっき、お前を待ちながら考えてたんだけどよ」 「う……んっ、何……?」 「五年前も今日も、逃げられないように抱きつぶして足腰立たなくしときゃよかったってな」 「竜次郎……」  冗談めかした告白に胸がぎゅっとなった。  竜次郎は、どんな気持ちであそこに立っていたのだろう。  心が弱くて、逃げ出すことばかり考えてしまう湊を……竜次郎はいつもこうして許してくれる。 「ん……っいい、よ。俺が逃げ出さないように、…捕まえて、おいて」  竜次郎が一緒にいてくれるのであれば、それがどんな形でも湊は嬉しい。  力の入らない腕を精一杯伸ばすと、逆に縋り付くように強く抱き締められた。  逃すまいとするような懸命さに、胸が焦げ付くようだ。  「一生逃さねえからな」という囁きが耳を打ち、そうして欲しいと湊もその背を抱き締め返した。

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