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第10話

「ごめん」 「なんで謝る? 敏明はプテロと呼んでいた」  俺はもう一度過去に帰って五歳の俺に頼むから別の名前にしてと言いたくなる。  この外見でプテロ?  でも男は懐かしそうに微笑む。 「ええと、プテロは何歳?」 「さあ…、二百歳くらい?」 「え? 二百歳?」  この家そこまで古くないよな。 「ずっとここにいたのか?」 「いや。前は別の家にいた。その家の子供に見つかってここに移った」  俺はぱっと顔を上げた。 「じゃあ引っ越せるんだ」 「え? 俺が引っ越すのか?」  思いもよらない事を言われたという顔で男が俺を見た。  俺としてはそこまで具体的に考えたわけじゃなく一応確認したと言うか、口からぽろりと出た言葉だったのだが、そうは聞こえなかったらしい。  今までにこにこしていたのが嘘みたいに不穏な雰囲気になった。なまじ端正な顔をしているから、眉を寄せて不機嫌な空気を出されてドキッとした。 「その、今すぐどうこうじゃなくて」 「じゃあ、いつか出て行けという意味か?」 「え、あの」 「敏明が突然いなくなってずっと待っていたのにお前は俺を忘れて、その上、出て行けと言うんだな」 「いや、その、そういうつもりじゃなくて」 「じゃあどういうつもりだ?」 「あの…」  何と言えばいいのか迷う間に、プテロは怒りをにじませた目で俺を見据えた。 「いいだろう。でも責任を取れ」 「せ、責任?」 「家を移るには生気が足りない」 「どういう意味?」 「この家を出たらおそらく消える」 「え、そうなのか?」 「だから生気をもらわないと出て行けない」  言ったと同時に俺はまた布団に押し倒されていた。  口づけは乱暴だった。  さっきよりずっと手荒いのに、それでも舌で口腔をかき回されると気持ちがよかった。

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