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第2話 僕、男の子です

「その前に、君の名前は?」 「あ、タァリって言います」 「タァリ?珍しい名前だな。俺はイリヤだ。この辺の子じゃないのか?」 「シトロの街から来たんです!今日ここに着いたばっかで。僕っ、この街に住もうって決めたんですっ」 「それでお金が必要なのか?」 「いや、あのっ、そ、それが、お金なくしちゃってっ」 「は?」 「き、気づいたらなくなってて」 「落としたのか?」 「多分……」 「はぁ…、で、どこに泊まっているんだ?」 「まだ決めてなくて……」 「なんの予定もたてずに来たのか?」 「ん!それはっ……」 「住むとこと仕事が必要ってわけか」 20㎝ほど自分より背の低いタァリが濡れた瞳で見上げている。 可愛いもの、特に小動物に目のないイリヤにノーと言えるはずはなかった。 「分かった。今日から住み込みで働いてもらう。ただし、毎朝6時スタートだぞ。大丈夫か?」 「ろ、6時……」 「朝食が必要なら、5時に起きてこい」 「ご、5時……」 「それが無理ならここでは働けないな」 「う……」 んーっと声に出しながら悩み始めたタァリがおかしくてイリヤは笑いを耐えるのに必死だった。 大きめのTシャツからは、日焼けで赤くなった肌と、黒いズボンを纏った細い足が伸びている。 シトロは冬が長く夏の短い街だ。この街の太陽は、夏に慣れていないこの少年には強すぎる。 白い肌が紅く染まり、ちょうど良い具合に焼け目のついたお菓子のようだとイリヤの心が和んだ。 ――美味しそうだ 人に使う言葉ではないな。 そう思いながら、イリヤは表情をコロコロ変え悩み続けるタァリを見下ろした。 「あ、あのっ!が、頑張ります!ぼ、ぼくっ5時に起きたことないけど、起こしてくれるなら、頑張って起きれると思うので!」 「俺に起こせと言うのか?」 「お願いします……」 「はぁ、しょうがない」 「ありがとうございます!」 「二階に住居スペースがある。セブに店番を頼むからついてこい」 カウンターの後ろにあるキッチンではセブが明日売るパンの仕込みをしている。 セブはイリヤのビジネスパートナーだ。 2メートル近くある大柄な男だが、彼が作るタルトやケーキは誰が作るものより繊細で美しい。 同じホテルのレストランで働いていたイリヤに、パティスリーを開こうと声をかけてきたのはセブだった。 「おい、セブ。少し店番を頼む。この子を上に連れていく」 「は?朝っぱらから可愛い子を持ち込む奴だとは思わなかったな。お前にはがっかりだ」 ニヤニヤと笑いながら小麦粉の付いた手を拭うセブはゆっくりと二人の方へ向かってくる。 「やあ、俺はセブだ、カワイ子ちゃん」 「は、初めまして!僕、タァリです!」 「残念だが、セブ、この子は男の子だ」 「あぁ?女の子にそんなこと言っちゃ失礼だろ」 「えっ、あっ、ぼ、僕、本当に男なんで!」 「ええええ!?」 「と、言うことだ。残念だったな」

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