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第3話 寝相はいいんで!

二階の部屋は広くはないが綺麗な部屋だった。 壁一面に広がる窓からは気持ちのいい太陽の光が入り込んでいる。 「この部屋を使え」 「僕一人でですか?」 「ん?」 「あの、この部屋は僕一人で使うんですか?」 「ああ、俺の部屋は隣だ」 不思議な質問だ。 タァリの質問の意味を何度も考えてもその意図が分からない。 窓の横にはオーク製の勉強机、部屋の角にはダブルベッド、もう片方にはクローゼットまでついている。 若い子に喜ばれるようなオシャレな部屋ではないが、落ち着く色でまとまった暖かみのあるこの部屋はイリヤのお気に入りだった。 部屋の広さに文句があるのか?と扉の近くに立つタァリを見下ろすと、小さな手が不安げにイリヤのシャツを掴んだ。 「えっと、あの、僕、一人で寝たことがなくて」 「え?」 「いつも、弟と同じベッドで寝てたから」 「一人旅に出かけた時点で、一人で寝るっていうことを考えなかったのか?」 「そ、そこまでは考えてなかったぁ…」 このまま放っておけば泣き出しそうなタァリの頭をイリヤは撫でた。 自然と手が動き、クルクルとうねる髪の毛が指の間をくすぐる。 「んっ」 タァリは瞳を閉じ頭を撫でる大きな手にすり寄っていた。 不安そうな表情がだんだんと穏やかになる様子にイリヤの心も落ち着いた。 「イリヤさんのお部屋に……僕も一緒に住むのは駄目ですか?」 「お前が、俺の、部屋に?」 一瞬何を言われたか理解できなかった。 理解するとすぐに自分では思いもつかない提案だなと感心した。 物理的には無理な話ではない。 イリヤの部屋はこの部屋より広いマスタールームだ。 ベッドだって自分の背丈に合わせてキングサイズを買った。 だからといって、今さっき出会ったばかりの、この美味しそうな小動物のようなタァリと一緒の部屋に住めるかと聞かれたら、すぐにイエスとは言えなかった。 「ダ、ダメですか?」 こぼれてしまいそうなくらい大きな瞳がうるうるとイリヤを見つめている。 何て不公平な状況だろう。 こんな可愛い顔を見せられて断れる術を持つ人間などいないはずだと、イリヤは眉間にシワを寄せた。 「ベッドはひとつしかないぞ?」 「大丈夫です!端っこで寝るんで!」 「そう言う問題じゃない……」 「え?本当に大丈夫です!僕、寝相いいんで!」 「はぁ、分かった。ただし慣れてきたらこの部屋に移ってもらうぞ」 「はい!わーい!やったぁ!」 「よし、それじゃあ、俺の部屋に荷物を置いたら店に戻るぞ」 「分かりました!」

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