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第5話 たべないでください!

「わぁっこわいぃ!」 床が揺れるような大きな雷の音でイリヤが目を覚めると、ベッドの端でスヤスヤと眠っていたはずのタァリがブランケットの中で丸くなりガタガタと震えていた。 「おい、大丈夫か?」 「む、むりぃ、やだぁ、たすけてっ」 この時期に雷は良く起きる。 それに合わせてトタン屋根を叩きつけるように大雨が降るのだ。 パニックを起こしているのか、泣きじゃくりながら過呼吸気味になってきたタァリの身体を引き寄せると、イリヤはぎゅっと両腕で包み込んだ。 自分より背が低く華奢な体は、力を入れすぎれば折れてしまいそうだ。 ブランケットから覗く栗色の髪がふわふわとイリヤの顔をくすぐる。 「大丈夫だ。俺がいる」 「んっんっ、やだ、かみなりやだぁ」 「タァリ、俺の心臓の音を聴け」 「う、うんっ」 逞しい胸に耳を付けトクトクと規則正しく音を奏でるイリヤの脈を聴いていると、タァリは少しばかり呼吸が楽になってきた気がした。 ブランケット越しに伝わる温もりが緊張でこわばっていた身体を溶かしてくれる。 「上手だ、タァリ。その調子だ」 「んっ」 心地よくうたた寝をしていたところ、大嫌いな雷で目が覚めた。 突然のことでパニックになり、何が何だかわからずに呼吸ができなくなっていった。 それなのに、イリヤの胸に耳を傾けているだけで、過呼吸だったことを忘れてしまうくらい呼吸がが落ち着いていく。 その反面、なぜか顔が火照り胸がどきどきしていく気がして、タァリは意味が分からなかった。 「タァリ」 頭上から聞こえた優しい声をタァリが追うと、青い瞳が細まった。 「そんな目で見られても困るな」 涙で濡れるヘーゼルナッツの瞳はイリヤの心を打ち抜いていた。 紅く染まる瞼、薄桃色に火照る頬、薄く開かれた唇、全てがイリヤの心を捕らえ、欲情を煽ってくる。 「これでも我慢しているんだぞ」 「我慢は良くないって言いますよっ」 自分の紡いだ言葉の意味をこの少年は理解しているのだろうか。 泣き声でそんなことを言われて、イリヤがこれ以上我慢できるはずがなかった。 「お前は美味しそうだな」 「ぼ、僕は食べても美味しくないですよっ」 「試してみなくちゃ分からないな」 「あっ、んんっ」 甘そうなその唇はさくらんぼを思わせた。 下唇を軽く舐め、甘噛みすると可愛い声が漏れる。 「食べないでくださいっ」 「こんなに美味しいのに?」 「ひゃっ」 言葉にならぬ声を発したタァリにかぶり付くように唇を合わせると、腕の中の柔らかい体が動揺と快感に揺れた。 タァリの咥内を撫で回し唾液を送り込むと、舌先に感じる甘さと体の芯で感じる甘さに気持ちが急ぐ。 コクリ 二人の唾液が混ざりあい、タァリの口角から飲み込めなかった唾液が流れ出る。 そんな姿でさえ愛しくてイリヤは口づけをし続けた。

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